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心理学の名著で学ぶ英語『いやな気分よさようなら』

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英語学習の教材選びに迷ったら、心理学の名著を読んでみるというのはいかがでしょうか。

今回取り上げる『いやな気分よさようなら(Feeling Good)』は、認知行動療法を世に広めた伝説的な一冊。

読みやすい、面白い、実生活の役に立つと、三拍子がそろった名著です。僕は大学生のときに日本語訳で読み、あまりに感銘を受けたものだから洋書でも買って再読しました。それから5回は読み直していると思います。

今回はこの本の魅力と、実際の英文の読み解き方をご紹介します。

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認知行動療法とは何か

本書のタイトルが『いやな気分よさようなら』なので、認知行動療法は「気分」を対象とする上っ面のアプローチなのかと勘違いするひとも少なくありません。

しかし実際の中身は、意外なほど知的で理詰めなアプローチです。ひとことで言えば、「私たちの気分は、出来事そのものではなく、その出来事をどう解釈するか(認知)によって決まる」という考え方に基づいた治療法です。

たとえば、友人からのメールになかなか返信がこないとき、「嫌われたのかもしれない」と考える人もいれば、「忙しいのだろう」と考える人もいます。同じ出来事でも、頭の中でどう解釈するかによって、私たちが感じる不安や落ち込みの度合いはまったく変わってきます。

認知行動療法は、この「解釈のクセ」に着目し、非合理的または極端な思考パターン(認知の歪み)を特定し、それをより現実的でバランスの取れたものに修正していくことで、メンタルの改善を目指します。

 

この治療法を体系化したのが、精神科医のアーロン・ベック(Aaron T. Beck)です。

1960年代、当初は精神分析の枠組みでうつ病を研究していたベックでしたが、患者の語る「自動的に浮かぶ否定的な考え」に注目し、そこから独自の理論を発展させていきました。うつ病の患者は、自分自身・世界・将来について否定的な思い込みを抱きやすく、これが症状を悪化させているのではないか…。この発見が、認知行動療法誕生のきっかけになったのです。

その後、実証研究によって高い効果が示されたこともあり、認知行動療法は急速に精神医療の主流へと躍り出ました。今日ではうつ病だけでなく、不安障害、パニック障害、強迫性障害など幅広い症状に対する治療法として、世界中の臨床現場で標準的に用いられています。

 

そして今回取り上げる『いやな気分よさようなら(Feeling Good)』は、このベックの理論を一般読者向けにわかりやすくまとめた一冊であり、認知行動療法を世に広めるうえで大きな役割を果たした名著なのです。

著者のバーンズは、ベックの友人でもあります。

 

『いやな気分よさようなら』はどんな本か

『いやな気分よさようなら(Feeling Good: The New Mood Therapy)』は、精神科医デビッド・バーンズ(David D. Burns)が1980年に発表した本。

前パートで紹介したアーロン・ベックの認知行動療法を、一般の読者にもわかりやすい形で伝えることを目的に書かれました。この本がもった影響力はとてつもないものがあったと言えるでしょう。

理論の解説にとどまらず、「10種類の認知の歪み」を見分ける方法や、それに対処するための具体的なワークシート、思考記録のつけ方など、読んだその瞬間から実践できるテクニックが数多く紹介されています。

 

構成としても読みやすさへの工夫が見られます。

図表がふんだんに使われていて、文章だけでは伝わりにくい思考のパターンや対処法のステップが、視覚的にすっと頭に入ってきます。

「読ませる本」というより「使う本」に近い作りになっていると言えるかもしれません。

 

英語のトーンについても触れておきたいポイントがあります。

日本語版は全体的に優しく、丁寧な語り口で訳されているのですが、原書の英語はかなりフランクです。

会話文のようにくだけた言い回しや、患者とのやり取りをそのまま再現したような口語表現が多く使われていて、著者に語りかけられているような感覚で読み進められます。日本語版の柔らかい印象とはやや異なる、率直でテンポの良い文体が原書の魅力の一つです。

 

なお、書籍としてのボリュームはかなりのもので、新書サイズながら約700ページに及びます。

ただし、実際に読むのは前半の400ページ程度で十分です。後半は薬物療法に関するかなり専門的な内容(抗うつ薬の種類や作用機序など)に割かれているため、認知行動療法の考え方やテクニックを学ぶという目的であれば、前半部分をしっかり読み込めば必要な内容はほぼ網羅できます。

英語学習の教材として使う場合も、まずは前半に絞って取り組むのが効率的だと思います。

 

原書の英文を読んでみる

では原書の英文を読んでみましょう。

具体的なテクニックについては本書を読んでもらうとして、ここでは著者の根本的態度がよく表れている文章を引こうと思います。

自尊心(self-worth)がいかに重要かを説いた箇所より。

First, you cannot earn worth through what you do. Achievements can bring you satisfaction but not happiness. Self-worth based on accomplishments is a “pseudo-esteem,” not the genuine thing! My many successful but depressed patients would would all agree. Nor can you base a valid sense of on your looks, talent, fame, or fortune. Marilyn Monroe, Mark Rothko, Freddie Prinz, and a multitude of famous suicide victims attest to this grim truth. Nor can love, approval, friendship, or a capacity for close, caring human relationships add one iota to your inherent worth. The great majority of depressed individuals are in fact very much loved, but it doesn’t help one bit because self-love and self-esteem are missing. At the bottom line, only your own sense of self-worth determines how you feel.

では一文ずつ解読していきましょう。

① First, you cannot earn worth through what you do.

語彙

  • earn:(努力して)得る、稼ぐ。お金だけでなく「信頼を得る」のように抽象的な対象にも使えます。
  • worth:価値。ここでは「自己の価値=self-worth」の意味で使われています。

読解ポイント “earn worth through what you do” で「自分の行動を通して価値を得る」という意味になります。what you do は関係代名詞節で「あなたがすること=行動・実績」を指します。

日本語訳 まず、人は自分の行動によって価値を得ることはできません。

② Achievements can bring you satisfaction but not happiness.

語彙

  • achievement:達成、業績
  • satisfaction:満足感
  • happiness:幸福

読解ポイント satisfaction(一時的な満足)とhappiness(持続的な幸福)が対比されている点がこの文の核心。can bring A but not B という形で、「Aはもたらすが、Bはもたらさない」という対比を作っています。

日本語訳 達成は満足感をもたらすことはあっても、幸福をもたらすことはありません。

③ Self-worth based on accomplishments is a “pseudo-esteem,” not the genuine thing!

語彙

  • accomplishment:業績、成し遂げたこと(achievementとほぼ同義)
  • pseudo-:「疑似の」「偽の」という意味の接頭辞(pseudonym「偽名」などにも使われます)
  • esteem:尊重、自尊心
  • genuine:本物の

読解ポイント pseudo-esteem という著者の造語がこの文のキーワードです。「疑似的な自尊心」というニュアンスを、引用符(” “)で強調しています。文末の感嘆符から、著者の強い主張が伝わってきます。

日本語訳 業績に基づいた自己価値は「疑似的な自尊心」であって、本物の自尊心ではありません。

④ My many successful but depressed patients would all agree.

語彙

  • successful:成功した
  • depressed:うつ状態の
  • patient:患者

読解ポイント successful but depressed patients で「成功しているのにうつ状態の患者たち」という一見矛盾するような組み合わせが示されています。この矛盾が、前文の主張(業績は本物の自尊心にならない)を裏付ける根拠になっています。

日本語訳 私の患者には、成功しているのにうつ状態にある人が多くいますが、彼らも皆この意見に同意するでしょう。

⑤ Nor can you base a valid sense of self-worth on your looks, talent, fame, or fortune.

語彙

  • valid:正当な、妥当な
  • looks:容姿
  • fame:名声
  • fortune:財産、富

(原文はof の後の self-worth が抜けていますが、文脈上補って解説します)

読解ポイント Nor can you ~ は否定の倒置構文です。前文の否定内容(cannot earn worth)を受けて「~もまた…できない」と続ける形で、Nor+助動詞+主語+動詞の語順になっています。base A on B で「AをBに基づかせる」という意味です。

日本語訳 同様に、容姿や才能、名声、財産に、正当な自己価値の根拠を置くこともできません。

⑥ Marilyn Monroe, Mark Rothko, Freddie Prinz, and a multitude of famous suicide victims attest to this grim truth.

語彙

  • a multitude of ~:多数の~
  • suicide victim:自殺した人
  • attest to ~:~を証明する、~の証拠となる
  • grim:厳しい、痛ましい

読解ポイント マリリン・モンロー(女優)、マーク・ロスコ(画家)、フレディ・プリンズ(俳優)という、容姿・才能・名声を持ちながら自ら命を絶った著名人を具体例として挙げることで、前文の主張に説得力を持たせています。attest to this grim truth で「この痛ましい真実を証明している」という意味です。

日本語訳 マリリン・モンロー、マーク・ロスコ、フレディ・プリンズ、そして数多くの著名な自殺者たちが、この痛ましい真実を物語っています。

⑦ Nor can love, approval, friendship, or a capacity for close, caring human relationships add one iota to your inherent worth.

語彙

  • approval:承認、評価されること
  • capacity for ~:~する能力、~を持てる資質
  • caring:思いやりのある
  • iota:ごくわずかな量(ギリシャ文字のイオタに由来。not one iotaで「一片も~ない」という強調表現)
  • inherent:本来備わっている、固有の

読解ポイント ここでも⑤と同じNor can ~の倒置が続いています。add one iota to ~ は「~にほんの少しでも加える」という意味で、否定文の中で使われることで「まったく~ない」という強い否定を表す慣用表現です。

日本語訳 同様に、愛や承認、友情、あるいは思いやりのある親密な人間関係を築ける能力も、あなたに本来備わっている価値に一片たりとも何かを加えることはできません。

⑧ The great majority of depressed individuals are in fact very much loved, but it doesn’t help one bit because self-love and self-esteem are missing.

語彙

  • the great majority of ~:~の大多数
  • individual:個人(ここでは人々の意味)
  • not ~ one bit:少しも~ない(one iotaと同じく強調の否定表現)
  • self-esteem:自尊心

読解ポイント be動詞+very much loved で「とても愛されている」という受動態が使われています。but以降で、愛されていることと自己肯定感の有無は別問題だという、本章を貫くテーマが端的に示されています。

日本語訳 実際、うつ状態にある人の大多数は、とても愛されています。しかしそれは何の助けにもなりません。なぜなら、自己愛と自尊心が欠けているからです。

⑨ At the bottom line, only your own sense of self-worth determines how you feel.

語彙

  • at the bottom line:結局のところ、つまるところ(ビジネス英語のbottom line「最終利益」から派生した比喩表現)
  • determine:決定する

読解ポイント only ~ determines … という強調構文的な形で、「自分自身の自己価値の感覚だけが、気分を決める」という、この一節全体の結論が簡潔にまとめられています。

日本語訳 つまるところ、あなたがどう感じるかを決めるのは、あなた自身の自己価値の感覚だけなのです。

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