英語で読む児童文学は、洋書入門として最高の選択肢です。
やさしい語彙とシンプルな文章構造でありながらも、友情・冒険・喪失・成長といった普遍的なテーマが丁寧に描かれているため、子どもも大人も広く楽しめるのです。
実際、僕が2009年に洋書多読を始めたときも、最初は児童文学の名著(ロアルド・ダールなど)を読んでいくことから始めました。
今回は、英語学習者にも読みやすく、かつ読み応えのある児童文学の名作を厳選して紹介しようと思います。
- フランク・ボーム『オズの魔法使い』(The Wonderful Wizard of Oz)
- エレノア・ポーター『少女ポリアンナ(少女パレアナ)』(Pollyanna)
- ジーン・ウェブスター『あしながおじさん』(Daddy-Long-Legs)
- ワイルダー『大草原の小さな家』(Little House on the Prairie)
- アンナ・スウェル『黒馬物語』(Black Beauty)
- ウィーダ『フランダースの犬』(A Dog of Flanders)
- バーネット『秘密の花園』(The Secret Garden)
- オールコット『若草物語』(Little Women)
- バリー『ピーター・パン』(Peter Pan)
- ロアルド・ダール『マチルダ』(Matilda)
- ホワイト『シャーロットの贈り物』(Charlotte’s Web)
- マデレイン・レングル『五次元世界のぼうけん』(A Wrinkle in Time)
- ケイト・ディカミロ『ウィン・ディキシーのいた夏』(Because of Winn-Dixie)
- キャサリン・パターソン『テラビシアにかける橋』(Bridge to Terabithia)
フランク・ボーム『オズの魔法使い』(The Wonderful Wizard of Oz)
最初の一冊目におすすめしたいのは、この名作ファンタジー。
カンザスの農場に住む少女ドロシーは、竜巻に巻き込まれ、見知らぬ国「オズ」へと飛ばされてしまいます。家に帰る方法を探すため、彼女は黄色いレンガ道をたどり、脳みそを求めるかかし、心臓を求めるブリキの木こり、勇気を求るライオンと旅をします。そしてたどり着くのが、魔法使いオズが住む「エメラルドの都」——。
日本でも映画やアニメで親しまれているこの物語ですが、原作の英語はとても平易で読みやすく、英語学習者にも最適です。使われる単語は日常的なものが多く、文も比較的短め。全体の分量もコンパクトです。
したがって、「英語の本を最後まで読み切った!」という達成感を得やすい1冊なのです。
また、”There’s no place like home.”(やっぱり家が一番)という有名なフレーズをはじめ、そのまま覚えておきたい表現がたくさん登場します。

ファンタジージャンルの一冊目にも、この本はおすすめできますね。
エレノア・ポーター『少女ポリアンナ(少女パレアナ)』(Pollyanna)
両親を亡くした少女ポリアンナは、厳格で冷たい叔母のもとに引き取られます。決して恵まれた境遇とは言えません。それでも彼女は、どんな状況でも「いいとこ探し」をするゲーム(”The Glad Game”)を続けます。最初は彼女を疎ましく思っていた町の人々も、ポリアンナの明るさに少しずつ心をほぐされていき……。
「ポリアンナ」という名前は英語圏では今や過度に楽観的な人を指す言葉(”Pollyanna”)として辞書に載っているほど、文化に深く根付いた感動の名作です。
英語の難易度としては『オズの魔法使い』よりやや難しいくらい。会話文が多く、テンポよく読み進められるのが特徴です。ポリアンナのセリフは明るくシンプルなものが多いので、「口に出して読んでみたい英語」もたくさん見つかるでしょう。
ジーン・ウェブスター『あしながおじさん』(Daddy-Long-Legs)
孤児院で育った少女ジュルーシャ(ジュディ)は、ある謎めいた富豪の支援を受け、大学へ進学することになります。条件はただひとつ、毎月手紙を書くこと。しかし相手の名前も顔も教えてもらえず、ジュディが知っているのは、去り際に壁に映った長い影だけ。彼女はその人をひそかに「あしながおじさん(Daddy-Long-Legs)」と呼び、手紙を書き続けます。大学生活のこと、読んだ本のこと、そして少しずつ芽生えていく感情のことを。
この作品の最大の魅力は、物語がすべてジュディの手紙だけで語られるという構成にあります。返事は一切登場しません。それでも、読み進めるうちにジュディという人物がいきいきと立ち上がってきます。その上手さはぜひ原文で味わってほしいところです。
英語の難易度も、平易な部類に入ります。手紙文という形式のため文章が自然で口語的、かつユーモアにあふれているので、「楽しく読める」という感覚が強いでしょう。
また、ジュディが大学で読んでいる本(キップリングやサッカレーなど)への言及も多く、英米文学への入り口としても機能します。
ワイルダー『大草原の小さな家』(Little House on the Prairie)
開拓時代のアメリカを生き抜いた一家の物語を、著者ローラ・インガルス・ワイルダーが自らの幼少期をもとに書いたシリーズ。
本書は、主人公一家がカンザスの大草原へと幌馬車で移り住むところから始まります。厳しい自然、ネイティブ・アメリカンとの緊張した関係、嵐や病気といった試練——それでも家族が助け合い、たくましく暮らしていく姿が、温かく力強い筆致で描かれています。
家を建てる場面、食事を準備する場面、草原の夕暮れを眺める場面——どれもシンプルな言葉で丁寧に描かれているので、「英語で情景を思い浮かべる」という読書本来の楽しさを体験しやすい作品です。
また、現代ではあまり使われなくなった開拓時代の生活用語や表現も登場するため、英語の歴史的・文化的な背景に興味がある方にも読みごたえがあります。
関連:『大草原の小さな家』はなぜ読みやすいのか【アメリカの国民的物語とその英語】
アンナ・スウェル『黒馬物語』(Black Beauty)
なんと、主人公は人間ではなく馬です。一頭の黒い馬が、自らの言葉で自らの一生を語っていきます。
イギリスの美しい田園地帯に生まれた黒馬ビューティは、やがてさまざまな主人のもとを転々とすることになります。愛情深い家族に大切にされた幸せな日々、過酷な労働を強いる冷酷な主人のもとでの苦しい日々…。境遇は変わっても、ビューティは誇りを失わず生きていきます。
馬の目を通して描かれる人間社会の光と影は、子どもだけでなく大人の心にも深く刺さります。
この作品がユニークなのは、もともと動物虐待の撲滅を訴えることを目的として書かれたという点です。著者アンナ・スウェルは病に伏せながらこの1冊だけを書き上げ、出版からわずか5ヶ月後に亡くなりました。
英語としては、19世紀の作品らしく文章がやや格調高く整っていて、これまで紹介した作品のなかでは少し文語的な印象があります。とはいえ決して難解ではなく、むしろ丁寧で読みやすい英語の手本のような文章です。「きれいな英語を身につけたい」という方には、とくにおすすめできます。
ウィーダ『フランダースの犬』(A Dog of Flanders)
あの『フランダースの犬』の原作です。
舞台は19世紀のベルギー、フランドル地方。孤児の少年ネロは、老いた祖父と貧しいながらも穏やかに暮らしています。彼には二つの宝物がありました。一つは、捨てられていたところを助けた大きな白い犬パトラッシュ。もう一つは、画家になるという夢。しかし現実は少年に厳しく、祖父は病に倒れ、貧困はじわじわと二人と一匹を追い詰めていきます。
日本で長く愛されてきたこの物語ですが、実は本国イギリスや物語の舞台ベルギーではほとんど知られておらず、日本と北米で特に深く愛された作品だというのは有名な話。なぜ日本人の心にこれほど響くのか。原文を読むと、その理由を自分なりに考えさせられます。
英語の難易度はかなり高め。著者のウィーダ(本名マリー・ルイーズ・ド・ラ・ラメー)は独特の格調ある文体で知られていて、やや古風で凝った表現が随所に登場します。
バーネット『秘密の花園』(The Secret Garden)
インドで育った少女メアリーは、コレラの流行で両親を亡くし、イギリスのヨークシャーにある叔父の屋敷に引き取られます。広大なのに人の気配が薄く、どこか秘密めいた大きな屋敷。ある日、メアリーはある噂を耳にします。屋敷のどこかに、10年間誰も入っていない庭がある、と。錆びた鍵を見つけ、蔦に隠された扉をくぐったとき、彼女の孤独な世界は動き始めます。
この物語の核心にあるのは、庭が甦っていくのと並行して、メアリー自身が、そして彼女の周りの人たちが少しずつ変わっていくという二重の再生です。
正直なところ作品の完成度はあまり高くないのですが、テーマ性の深さが本作を比類なき名作にしていると思います。

バーネットなら『小公女(A Little Princess)』のほうが完成度は高いです。これも感動の王道作品なので読んでみてください。
オールコット『若草物語』(Little Women)
舞台は南北戦争中のアメリカ、マサチューセッツ州。父が従軍中の家を守りながら、マーチ家の四姉妹(しっかり者の長女メグ、おてんばで作家志望の次女ジョー、内気で音楽を愛する三女ベス、おしゃれが大好きな末っ子エイミ)は、それぞれの夢や悩みを抱えながら日々を過ごしています。
貧しくても笑いが絶えない家の中、姉妹のぶつかり合いと支え合い、淡い恋心、そして避けられない別れ。日常のささやかな出来事が積み重なって、気づけばずっとこの家族のそばにいたくなっています。
著者ルイーザ・メイ・オールコットは、この物語を自らの姉妹との幼少期をもとに書きました。四姉妹の中でも次女ジョーは著者自身の分身とされていて、「書くことで自分の人生を切り開こうとする女性」の姿は、発表から150年以上経った今も色褪せていません。
英語の難易度は、これまでの作品のなかでもやや高めです。姉妹の会話はユーモアとウィットにあふれ、思わず口元がゆるんでしまう場面が随所に登場します。感情表現の豊かさという点でも、英語学習者にとって得るものが多い1冊です。
バリー『ピーター・パン』(Peter Pan)
子どもたちを夢の島「ネバーランド」へ連れていく少年ピーター・パンの冒険を描いた物語。ディズニー版を通じて知っている人も多いと思います。
実は、文章はかなり難しいです。児童文学のなかでは、もっとも難しい部類に入るかもしれません。したがって中級者向けです。
そのぶん、”second star to the right, and straight on till morning”など、印象的なフレーズも多く、英語の美しさを感じながら読み進められるでしょう。
子ども向けながら、大人になることへの切なさも描かれており、大人が読んでも深く楽しめる名作です。
ロアルド・ダール『マチルダ』(Matilda)
ここからは現代の児童文学に入ります。まずはロアルド・ダールの名作から。
天才少女マチルダが、本の力と超能力で意地悪な大人たちに立ち向かう痛快な物語。ダール特有のユーモアあふれる文体は読者を飽きさせず、平易な語彙が使われているため、初心者の洋書デビューにもおすすめです。
ダールは映画化もされた『チャーリーとチョコレート工場』のほうが有名ですが、個人的には『マチルダ』を推したいです。
ホワイト『シャーロットの贈り物』(Charlotte’s Web)
農場で暮らす子豚ウィルバーと、彼を救おうとするクモのシャーロットの友情を描いた感動作。
動物たちの会話が多く、自然な英語表現を楽しみながら読み進められます。友情・命・別れといった普遍的なテーマを扱い、読み終えた後には深い余韻が残ります。
しかも美文です。現代におけるきれいな英語の代表格。
マデレイン・レングル『五次元世界のぼうけん』(A Wrinkle in Time)
時空を超えて行方不明の父を探す少女メグの冒険を描いたSFファンタジー。1963年のニューベリー賞受賞作。
テッセラクト(四次元の折り畳み)など科学的な概念が登場しますが、物語の軸はあくまでも家族への愛と自己受容というあたたかいテーマです。
ジャンルの特性上、英語はやや歯ごたえがあるものの、それだけに読み応えもあります。ファンタジーやSFが好きな方におすすめ。
関連:英語でファンタジーを読むならこれ【おすすめ洋書11冊】
ケイト・ディカミロ『ウィン・ディキシーのいた夏』(Because of Winn-Dixie)
新しい町に引っ越してきた10歳の少女オパールが、スーパーで拾った大きな犬ウィン・ディキシーとともに、さまざまな人々と出会い絆を結んでいく物語。
会話が自然で、現代アメリカの生活英語をそのまま味わうことができます。
孤独や喪失、そして人とのつながりがさりげなく丁寧に描かれており、読後にじんわりとした幸福感が残ります。2001年のニューベリー賞次点作で、児童文学の傑作として広く愛されています。
キャサリン・パターソン『テラビシアにかける橋』(Bridge to Terabithia)
内気な少年ジェスと転校生の少女レスリーが、森の中に秘密の王国「テラビシア」を作り上げ、深い友情を育んでいく物語。
リズミカルな英語で書かれており、読みやすさの中に豊かな表現が散りばめられています。内面描写が深く、心理的な語彙が増えます。
物語の後半には予期せぬ展開も。深い悲しみと再生のテーマが胸を打ちます。子ども向けでありながら、喪失と成長を真正面から描いた骨太な作品で、読み終えた後に長く心に残る一冊です。1978年のニューベリー賞受賞作。

