デール・カーネギーの名著『道は開ける』(How to Stop Worrying and Start Living)は、1948年の出版から今も読み継がれる自己啓発の古典。
読みやすい文章と内容の有益さ、そして面白さがあいまって、洋書多読に加える本としても超おすすめです。
実際、僕はもう原書で5回以上は読んでいると思います。これだけ読んでも飽きないし、読むたびに発見があります。
この記事では、カーネギーの『道は開ける』から英文を紹介し、一文ずつ読解していきます。
デール・カーネギーと『道は開ける』
デール・カーネギーとは何者か?
デール・カーネギー(Dale Carnegie, 1888–1955)は、アメリカの作家・講師で、自己啓発・話し方・人間関係の分野における先駆者。
ミズーリ州の農家に生まれ、苦労しながらも話し方の教室を開き、やがて世界中に影響を与える存在となりました。
彼の名を世界に知らしめたのが、1936年に出版された『How to Win Friends and Influence People』(邦題:『人を動かす』)です。この本は今なお世界中で読まれ続けるベストセラーで、カーネギーは「自己啓発の父」とも称されています。
『道は開ける』について
『How to Stop Worrying and Start Living』(邦題:『道は開ける』)は、1948年に出版されたカーネギーのもう一つの代表作です。
この本のテーマは「悩みの克服」。人はなぜ悩むのか、そしてどうすれば悩みから解放されるのか。カーネギーは、歴史上の人物や同時代の人々の実例をふんだんに交えながら、具体的かつ実践的なアドバイスをわかりやすい英語で語りかけるのです。
出版から70年以上が経った今も世界中で読まれ続けているのは、その内容が時代を超えて普遍的だからでしょう。
また英語学習の観点からも、カーネギーの文章は「読みやすい英語」の手本として優れています。語彙は平易で、文構造はシンプル。そしてユーモアがあります。
ザ・アメリカ的なポジティブなノリが人を選ぶ可能性はありますが、傑作であることは確か。洋書多読のラインナップの一角に加えてしかるべき良書といえるでしょう。
『道は開ける』を英語で読んでみる

では英文を読んでみましょう。
第八章「A Law That Will Outlaw Many of Your Worries(心配ごとを解消する法則)」より、冒頭の文です。
本書の読みやすさと、ユーモラスな語り口の特徴がばっちりつかめると思います。
As a child, I grew up on a Missouri farm; and one day, while helping my mother pit cherries, I began to cry. My mother said, “Dale, what in the world are you crying about?” I blubbered, “I’m afraid I’m going to be buried alive!”
I was full of worries in those days. When thunderstorms came, I worried for fear I would be killed by lightning. When hard times came, I worried for fear we wouldn’t have enough to eat. I worried for fear I would go to hell when I died. I was terrified for fear an older boy, Sam White, would cut off my big ears–as he threatened to do so. I worried for fear girls would laugh at me if I tipped my hat to them. I worried for fear no girl would ever be willing to marry me. I worried about what I would say to my wife immediately after we were married. I imagined that we would be married in some country church, and then get in a surrey with fringe on the top and ride back to the farm…but how would I be able to keep the conversation going on that ride back to the farm? How? How? I pondered over that earth-shaking problem for many an hour as I walked behind the plow.
では一文ずつ解読してみましょう。
① As a child, I grew up on a Missouri farm; and one day, while helping my mother pit cherries, I began to cry.
日本語訳 子どもの頃、私はミズーリ州の農場で育った。ある日、母がさくらんぼの種を取るのを手伝っていると、私は泣き出した。
重要単語
- pit(動詞):果物の種を取り除く。名詞「穴・種」から転じた動詞用法。pit cherries で「さくらんぼの種を取る」
- Missouri:アメリカ中西部の州。カーネギーの実際の出身地
読解ポイント while helping my mother pit cherries は「知覚動詞/使役的構文」の応用で、help + 人 + 動詞の原形 の形が helping の中に埋め込まれています(help her pit = 彼女が種を取るのを手伝う)。
セミコロン(;)は二つの独立した文をゆるやかにつなぎ、「背景」→「出来事」の流れを作っています。
一言コメント 冒頭から具体的な農作業の場面を持ってくるのがカーネギーの語り口の特徴。抽象的な「心配」の話を、さくらんぼの種取りという日常の一場面から始めることで、読者を一気に引き込みます。このように具体から話を始めるのは、アメリカの著述家に典型的です。
② My mother said, “Dale, what in the world are you crying about?”
日本語訳 母は言った。「デール、いったい何を泣いているの?」
重要単語
- what in the world:「いったい全体何が〜」という強調表現。in the world は疑問詞を強める慣用句(= on earth, the hell などと同系統)
読解ポイント what are you crying about? の about は文末に置かれた前置詞。「何について泣いているの?」という意味で、about what are you crying? とは言わないのが自然な英語です。
一言コメント 母親のセリフはごく普通の問いかけですが、直後に明かされる答えとのギャップがユーモアを生みます。「生き埋め」という答えを際立たせるための間(ま)として機能しています。
③ I blubbered, “I’m afraid I’m going to be buried alive!”
日本語訳 私はしゃくり上げながら言った。「生き埋めにされそうで怖いんだ!」
重要単語
- blubber(動詞):声を上げて泣く、しゃくり上げながら話す。cry より感情的・子どもっぽいニュアンスが強い
- be buried alive:生き埋めにされる。alive は補語で「生きたまま」の状態を示す
読解ポイント I’m afraid (that) I’m going to 〜 は「〜しそうで怖い・心配だ」という定番表現。I’m afraid は謝罪や遠慮(I’m afraid I can’t help.)にも使いますが、ここは文字通り「恐怖・不安」の意味です。be going to が「(悪いことが)起こりそうだ」という予感を表しています。
一言コメント blubbered という動詞の選択が絶妙です。said や cried ではなく、泣きじゃくりながら訴える子どもの様子がありありと浮かびます。カーネギーが自分の過去を笑い飛ばせる余裕も伝わります。
④ I was full of worries in those days.
日本語訳 当時の私は心配事でいっぱいだった。
重要単語
- be full of 〜:〜でいっぱいである。物理的な充満だけでなく、感情や性質にも使う
- in those days:当時は、あの頃は(過去の特定の時期を指す)
読解ポイント この一文は短いながら、直前の具体的エピソードから「一般論」へ切り替えるための転換文(topic sentence)です。以降に続く心配事のリストを予告する役割を持ち、段落構造として明快です。
⑤ When thunderstorms came, I worried for fear I would be killed by lightning.
日本語訳 雷雨がやってくると、雷に打たれて死ぬのではないかと心配した。
重要単語
- thunderstorm:雷雨(thunder=雷 + storm=嵐)
- for fear (that) 〜:〜を恐れて、〜ではないかと心配して。やや文語的な表現
- be killed by lightning:落雷で死ぬ。lightning は不可算名詞
読解ポイント for fear (that) S would 〜 は「〜するのを恐れて」という目的・理由を表す表現で、否定的な結果を避けようとする心理を示します。lest S (should) 〜 とほぼ同義ですが、for fear のほうが口語に近い。この後も同じ構文が繰り返され、列挙のリズムが心配性の子どもの姿を強調します。
一言コメント ここから怒涛の「心配リスト」が始まります。同じ構文の繰り返し(アナフォラ)は、演説や自己啓発書の古典的な技法で、読者に「これほど多くの心配を抱えていた」という印象を畳みかけるように伝えます。
⑥ When hard times came, I worried for fear we wouldn’t have enough to eat.
日本語訳 不景気になると、食べるものが足りなくなるのではないかと心配した。
重要単語
- hard times:苦しい時代、不景気、窮乏期。times と複数形で「時代・状況」を表す
- enough to eat:食べるのに十分な(もの)。enough + to不定詞 の形
読解ポイント we wouldn’t have enough to eat の enough は代名詞的に使われており、enough food の food が省略された形。wouldn’t は仮定・懸念の帰結を表し、「〜ではないか」という不安の気持ちを過去から描写しています。
一言コメント 落雷(自然の脅威)から食糧不足(社会・経済の脅威)へ。心配の種類が広がり、農家の少年が置かれた現実の厳しさも垣間見えます。
⑦ I worried for fear I would go to hell when I died.
日本語訳 死んだら地獄に落ちるのではないかと心配した。
重要単語
- go to hell:地獄に行く。宗教的な意味での地獄(hell)
- when I died:死んだとき。if ではなく when を使うことで「死は避けられない」という含意がある
読解ポイント if I died(もし死んだら)でなく when I died(死んだとき)という表現が興味深い。子どもが死を「起こりうること」ではなく「必ず来ること」として捉えていたことが、when の一語に凝縮されています。
一言コメント 落雷・食糧・地獄と、心配の対象がどんどん根源的になっていきます。子どもの心配が「今」「現実」「死後」と時間軸を超えていく様子が、ほんのり可笑しくもあり、切なくもあります。
⑧ I was terrified for fear an older boy, Sam White, would cut off my big ears–as he threatened to do so.
日本語訳 年上の少年サム・ホワイトが大きな耳を切り落とすと脅していたので、本当に切り落とされるのではないかとおびえていた。
重要単語
- terrified:ひどくおびえた、恐怖に駆られた。worried より強い恐怖を表す
- cut off:切り落とす
- threaten to do:〜すると脅す
読解ポイント as he threatened to do so の as は「〜したように・〜したとおりに」という様態を表します。ダッシュ(–)は補足・挿入の役割で、脅しの事実を後から付け加えることで「本当に脅されていた」というリアリティを加えています。my big ears と自分の耳を big と表現しているのも自虐的なユーモアです。
一言コメント それまで「雷」「食糧」「地獄」と壮大だった心配が、急に「耳を切られる」という子どもの喧嘩レベルに降りてきます。この落差がカーネギーならではのユーモアで、読者を笑わせながら引き込みます。
⑨ I worried for fear girls would laugh at me if I tipped my hat to them.
日本語訳 女の子に帽子を取って挨拶したら笑われるのではないかと心配した。
重要単語
- laugh at 〜:〜を笑う、〜をバカにする
- tip one’s hat:帽子のつばに手を触れて挨拶する(当時の男性の礼儀作法)
読解ポイント ここで初めて for fear S would 〜 の構文に if 節が加わり、「もし〜したら」という条件が追加されています。行動する前から笑われることを想像して萎縮している心理が、文の構造にも表れています。
一言コメント 地獄の恐怖から、女の子への気恥ずかしさへ。思春期の入り口にいる少年の心理が微笑ましく描かれています。「行動する前から最悪の結果を想像する」という心配性の本質がよく出た一文です。
⑩ I worried for fear no girl would ever be willing to marry me.
日本語訳 自分と結婚してくれる女の子なんて一人もいないのではないかと心配した。
重要単語
- be willing to 〜:進んで〜する、〜してもよいと思う。強制でなく自発的な意志を表す
- ever:(否定文・疑問文で)いつか、少しでも。no … ever で「決して〜ない」という強調
読解ポイント no girl would ever be willing to という表現は三重の否定的強調(no + ever + willingの否定)。「誰も」「絶対に」「自分から進んで」結婚しようとしないだろう、という少年の自己評価の低さが言葉の選択に滲み出ています。
一言コメント 前の文の「笑われるかも」から「そもそも結婚できないかも」へと悲観がエスカレートしていきます。心配が連鎖・拡大していく様子が、カーネギーが後に語る「心配のスパイラル」のまさに実例になっています。
⑪ I worried about what I would say to my wife immediately after we were married.
日本語訳 結婚した直後に妻に何を話せばいいのか、心配していた。
重要単語
- immediately after 〜:〜の直後に
- what I would say:何を言うべきか(間接疑問文)
読解ポイント worried about + 間接疑問文(what I would say)の形。「結婚できるかどうか」すら定かでないのに、「結婚した直後の会話」を心配しているという時制の飛躍がユーモラスです。心配が現実を飛び越えて先へ先へと走っていく様子が鮮やかに描かれています。
一言コメント ここから心配はさらに具体的・妄想的になっていきます。「できもしないことの細部を心配する」という、誰もが共感できる経験をカーネギーは臆せず告白します。
⑫ I imagined that we would be married in some country church, and then get in a surrey with fringe on the top and ride back to the farm…
日本語訳 どこかの田舎の教会で結婚式を挙げ、天蓋にフリンジの付いた幌馬車に乗って農場へ帰るのだろう、と想像していた。
重要単語
- surrey:サリー(19世紀〜20世紀初頭のアメリカで使われた四輪の軽馬車)
- fringe on the top:天蓋(幌)のフリンジ飾り。ミュージカル『オクラホマ!』の名曲 The Surrey with the Fringe on Top でも有名
- country church:田舎の教会
読解ポイント some country church の some は「どこかの、ある」という不特定を表します(a よりも漠然とした印象)。三点リーダー(…)は思考が途切れ、次の不安へ向かう「間」を視覚的に表しています。
一言コメント 心配の中に、少年の淡い夢とロマンが混じり込んでいます。「生き埋め」「地獄」「耳を切られる」から始まった心配リストが、ここで突然詩的な情景描写になるギャップが絶妙です。
⑬ …but how would I be able to keep the conversation going on that ride back to the farm? How? How?
日本語訳 ……でも農場への帰り道、どうやって会話を続けたらいいんだろう?どうやって?どうやって?
重要単語
- keep 〜 going:〜を続かせる、〜を維持する
- keep the conversation going:会話を途切れさせずに続ける
読解ポイント How? How? という一語疑問文の繰り返しは、少年の頭の中でぐるぐると同じ問いが回り続けている様子を再現しています。通常の散文では使わない手法で、カーネギーの文章が演説調・語りかけ調である証拠です。
一言コメント 「会話を続けられるか」という心配は、現代の誰もが共感できるものです。読者は思わず笑いながら「わかる」と感じる。カーネギーが自己啓発書で成功した理由の一つは、こうした普遍的な自己開示の巧みさにあります。
⑭ I pondered over that earth-shaking problem for many an hour as I walked behind the plow.
日本語訳 私は鋤の後ろを歩きながら、その「天地を揺るがす大問題」について何時間も思い悩んだ。
重要単語
- ponder over 〜:〜についてじっくりと考え悩む
- earth-shaking:天地を揺るがすほどの、大変重大な(ここでは明らかに反語・皮肉)
- many an hour:何時間も(many an + 単数名詞 は文語的で「数多くの〜」を強調)
- plow(= plough):鋤(すき)。農耕用の土を掘り起こす道具
読解ポイント earth-shaking を「会話が続かない」という悩みに使うのは明らかな誇張(hyperbole)であり、自己ツッコミです。as I walked behind the plow という農作業の情景が、壮大な悩みとの対比でユーモアを倍増させています。many an hour は many hours より格調があり、大げさな悩みをさらに大げさに語るトーンと合っています。
一言コメント この文で段落が締まります。「鋤を引きながら結婚後の会話を悩む少年」という最後のイメージは、滑稽でありながら深く共感を呼びます。心配とは、現実と関係なく頭の中で勝手に育っていくものだ。カーネギーはそのことを、説教ではなく自分の可笑しな話として伝えています。
自己啓発系のおすすめ洋書はこちらの記事で紹介しています。

