「達人の技にふれて、翻訳の技術を磨きたい」。
このような人におすすめの名著が、中村保男の『英和翻訳表現辞典』です。
最近新版が出てアクセスしやすくなったので、あらためておすすめしておきます。
どんな本なのか?一言でいえば普通の英和辞典に載っていない訳語を集めた辞書です。ボリュームは820ページ。
といっても重箱の隅をつつくようなマニアックな辞書ではありません。むしろありふれた基本語が多いです。
本書の真髄は、それらの基本語を普通の辞書とは違う翻訳のレベルで訳していること。達人がどのように英語を日本語に翻訳しているかを、まざまざと観察できるわけです。
訳を調べるために使う辞典というより、翻訳脳そのものをレベルアップさせるための読む辞典です。
日本語が上手いのもポイント。翻訳は母国語のほうが大事とよく言われますが、本書の日本語訳を熟読していけば日本語の運用能力も向上します。
単語だけでなくそれを含む文章を丸々引用して全体を訳しているので、英文読解の訓練にもなりますね。
『英和翻訳表現辞典』から具体例をいくつか紹介
ではいくつか例を挙げてみましょう。
たとえばat large。これは「犯人などが捕まっていない」とか「拘束されていない」とか「自由だ」といった定義訳が与えられるのが常ですよね。
しかし著者はこれに「野放し」という日本語を与え、原語のニュアンスを集約的に表現させます。
knowとknow ofの訳し分けについて次のような例文を引いています。
I don’t know him, but I know of him.
これを著者は「面識はないが、噂は聞いている」と訳しています。
be meant toは頻出するわりに訳しにくい熟語ですが、著者は「するためにある」と訳せとアドバイスします。
たとえばCultural literacy is meant to be shared by everyone.なら「文化常識は万人に共有されるためにある」となります。
あるいは次のような文章。
He expressed his feelings in a subtle way.
このwayをどう訳すか。「仕方で」と訳すひとが多いですが(とくに学者に)、著者は「微妙な言い方で」とか「きめこまやかな口ぶりで」と訳します。
と、こういうふうに著者一流の表現訳の解説が820ページも続いていくわけです。本書を通読すると、間違いなく言語運用能力が上がりますよ。
英文和訳の参考書としては使わないほうがいいかも
この『英和翻訳表現辞典』、学校の授業レベルの英文和訳の参考書としては使わないほうがいいかもしれないです。
なぜかというと、レベルが高すぎるからですね。本書の訳語を使って答案を作成すると、採点者に理解されず、かえって減点されるおそれがありそう。実際、著者もそう注意しています。
英文和訳の答案を書くときは、あえて直訳っぽい日本語に移し替えるのがコツです。
続編『英和翻訳表現辞典 基本表現・文法編』は無理して読む必要ない
『英和翻訳表現辞典』には続編も出ています。
ただこれは無理してまで取り組む必要はないと思いますね。続編は著者が全面的に関わっているわけではないようで、どうも切れ味が鈍い気がしました。
無理して続編を読むよりも、『英和翻訳表現辞典』を周回したほうが効果が高いと思います。余裕があるようなら続編にも手を出してみればよいでしょう。
翻訳関連のおすすめ本については以下の記事も参考にしてみてください。
