翻訳を勉強したい人におすすめされる定番書といえば、安西徹雄の『英文翻訳術』(ちくま学芸文庫)。
著者はシェイクスピアの翻訳でも知られる超一流の翻訳者です。
僕もこの本にはお世話になりました。たぶん4周か5周はしたと思う。
英文法の枠組みごとに翻訳術をまとめている点が特徴。
たとえば「動詞」とか「関係代名詞」とか「話法」とか、英文法には色々なカテゴリーがありますよね。それらの領域ごとに、この場合はこういうふうに注意して翻訳するといいよとアドバイスしてくれます。
ページ数は約280ページ。コンパクトですが、じっくりじっくり進めて何度も周回することになるので、長い付き合いになる本です。1周目は一ヶ月ぐらいかけてもいいと思いますね。
独学で翻訳トレーニングに乗り出したい人は、まずこの本から取り組むのがおすすめです。翻訳脳の基礎ができあがります。
翻訳の大原則はこの3つ
本書でまず口を酸っぱくして強調されるのが、英文和訳と翻訳は違うということ。英語のテストで英文和訳や和文英訳が得意だったからといって、それがそのまま翻訳で通用するかというと、そう話はうまくいかないのです。
では英文和訳と翻訳は具体的にどのように違うのでしょうか?
実例で示したほうがわかりやすいので、本書からちょっと引用してみたいと思います。
関係代名詞のセクションで、次のような英文が掲載されています。
Television has not yet been applied to all the uses which will be found for it.(安西徹雄『英文翻訳術』)
これをどう訳すか?英文和訳レベルだと次のようになります。
テレビはまだ、将来そのために発見されるであろうすべての用途に応用されていない。(同書より)
学校の英文和訳のテストならこれで丸がもらえるはずですよね。ちなみに学者もよくこういう文章を書きます。
しかし翻訳レベルを目指すにはこれではダメだと著者はいいます。これじゃ日本語としてなっていないと。
著者の訳文例は次のとおり。
テレビの応用範囲は、現在の用途以外にも、将来まだまだ見つかるはずだ。(同書より)
自然な日本語ですし、原文が伝えようとしていた意味内容もしっかり表現されていますよね。
どうやったらこのような翻訳のレベルに行けるのか?
著者は翻訳の大原則として、以下の3つを意識するように強調しています。
・そのためには原文の構文的な構造ではなく、その背後にある思考の流れを読み取ることが必要
・そして原文から取り出してきた思考の流れを、自然な日本語で表現する
原文をただ日本語に置き換えていくのではなくて、原文の背後にある思考そのものをイメージ化し、そのイメージを日本語に降ろす感じですね。
そして日本語はわかりやすいものでなくてはいけません。実はここが最大の難関だったり。したがって、翻訳の勉強をある程度まで進めると、外国語よりも母国語の勉強のほうが大事になってきたりします。
また本書の最後には、翻訳の勉強を続けていくうえで特に意識すべき3点が挙げられています。
・英語を知ること
・日本語を習うこと
・翻訳という仕事を愛すること
ここでもやはり、日本語力を豊かにしていくことの重要性が説かれています。
翻訳の入門に最適の必読書
以上、安西徹雄の『英文翻訳術』(ちくま学芸文庫)について紹介しました。
翻訳の勉強を始めるならまずはこの本から入るのがいいでしょう。
これを2~3周すれば相当な力が身につきますよ。