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英語の歴史2 中英語とは何か|フランス語が流れ込んだ英語の転換期

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英語ははじめから今のような姿をしていたわけではありません。

古英語の複雑な文法が崩れ、多様な外来語を取り込みながら、英語はゆっくりと別の言語へと生まれ変わっていきました。

その決定的な転換期にあたるのが中英語の時代です。

本記事では、ノルマン征服による社会構造の変化を出発点として、中英語がどのように形成され、どのような特徴をもつ言語であったのかを解説します。

フランス語語彙の流入による語彙体系の変化、文法の簡略化、発音の変動、そしてチョーサーによる英語文学の成立までをたどりながら、現代英語へとつながる道筋を整理していきます。

中英語を知ることは、現代英語の不規則さや豊かな表現力の理由を知ることでもあります。

英語史のなかでこの時代が果たした役割を押さえることで、次に続く近世英語、そしてシェイクスピアの英語が、より立体的に見えてくるはずです。

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中英語とは何か?

アルファベットの列

中英語とは、11世紀後半から15世紀後半にかけて、イングランドで用いられていた英語のことを指します。

一般には、1066年のノルマン征服を境に古英語の時代が終わり、中英語の時代が始まったと考えられています。

この時期の英語は、古英語のような複雑な語形変化を次第に失いながら、現代英語へとつながる語順中心の言語へと姿を変えていきました。

 

中英語の最大の特徴は、フランス語およびラテン語の強い影響を受けた点にあります。

政治や法律、宗教や学問といった分野では支配層の言語であったフランス語やラテン語が用いられ続ける一方、庶民の日常生活では英語が話されていました。

このような言語の分業状態のなかで、英語は語彙を大きく増やし、表現の幅を広げていきます。

中英語は、古英語と現代英語の中間に位置する過渡的な言語段階であり、英語が再び書き言葉として社会的地位を回復していく時代でもありました。

後の近世英語、そして現代英語を理解するための出発点として、中英語はきわめて重要な位置を占めています。

 

古英語から中英語へ:ノルマン征服とフランス人による支配

古英語から中英語への移行は、単なる言語内部の変化ではなく、イングランド社会そのものを根底から変えた歴史的事件と深く結びついています。

その転換点となったのが、1066年のノルマン征服です。

ノルマン公ウィリアムがイングランドを征服したことで、王権と貴族層はフランス系の支配者に置き換えられ、政治・軍事・行政の中枢は一気にフランス語話者の手に渡りました

 

この結果、イングランドでは三つの言語が併存する特殊な状況が生まれます。

・王侯貴族や宮廷ではフランス語が用いられる
・教会や学問の世界ではラテン語が支配的
・農民や都市の庶民は英語を話し続けていた

英語は国家の公式言語の地位を失い、長いあいだ「書かれない言語」として周縁に追いやられることになります。

 

しかし、英語が社会から消えることはありませんでした。

むしろ、日常生活の言語として生き延びた英語は、フランス語との接触を通じて大きく姿を変えていきます。

統治、法律、軍事、文化といった分野の語彙が大量にフランス語から流入し、英語の語彙体系は質的にも量的にも拡張されました。

例えば、家畜を指す語は英語のまま残る一方で、その肉を指す語にはフランス語由来の語が使われるようになるなど、社会階層を反映した語彙の二重構造が形成されます。

 

また、この時期には文法面でも大きな変化が進行します。

古英語に見られた名詞や形容詞の格変化は次第に簡略化され、語尾によって意味関係を示す仕組みが崩れていきました。

その代わりに、語順や前置詞が文の意味を担うようになり、英語はより分析的な言語へと移行していきます。

このような変化は、異なる言語背景をもつ話者どうしが意思疎通を図るなかで、分かりやすさが求められた結果とも考えられます。

 

古英語から中英語への移行期は、英語が一度社会的な地位を失いながらも、外来語を取り込み、構造を変化させることで、新たな言語として再編成されていく過程でした。

この歴史的経験こそが、英語を柔軟で多層的な言語へと導くきっかけになったのです。

 

中英語の語彙・文法・発音

中英語の時代は、英語の構造そのものが大きく作り替えられた時期でした。

語彙、文法、発音のいずれにおいても、古英語とは異なる方向への変化が進行し、現代英語の基盤がこの時代に形づくられていきます。

中英語の語彙

まず語彙の面では、フランス語およびラテン語からの借用語が大量に流入したことが最大の特徴です。

これによって、英語は日常的で具体的な語彙に加え、抽象的で制度的な語彙を豊富に備えるようになりました。

結果として、意味の近い語が複数共存する語彙体系が生まれます。

例えば、日常的な行為を表す語には英語由来の語が残り、より形式的・抽象的な場面ではフランス語由来の語が用いられる傾向が定着しました。

この語彙の重層性は、現代英語における文体の幅広さの直接的な源泉となっています。

英語は語彙の数が多い言語として有名です。しかも類義語の数が多い。その原因には、このような歴史的背景があります。

中英語の文法

次に文法を見ると、中英語期には古英語の屈折的な文法が急速に簡略化されていきました。

名詞の格変化や形容詞の一致はほとんど失われ、動詞の活用も大幅に単純化されます。

こうした変化の結果、文の意味関係を示す役割は語尾から語順へと移り、英語は語順に強く依存する言語へと変化していきました。

主語―動詞―目的語という語順が安定していくのも、この時代の重要な特徴です。

この文法的単純化は、異なる言語背景をもつ人々のあいだで英語が使われる環境のなかで、理解しやすさが重視されたことと無関係ではありません。

中英語の発音

発音の面でも、中英語は大きな転換期にあたります。

古英語では綴りと発音の対応関係が比較的明確でしたが、中英語期には音変化が進行し、地域差も拡大しました。

母音の質は徐々に変化し、後の近世英語期に起こる大母音推移の前段階となる変化がすでに始まっています。

一方で、綴りは写本文化のなかで比較的保守的に維持されたため、発音とのずれが次第に生じていきました。

このずれこそが、現代英語における綴りと発音の不一致の遠因となっています。

 

語彙の拡張、文法の簡略化、発音の変化という三つの動きは、それぞれ独立した現象ではありません。

社会的支配構造の変化、多言語接触、書き言葉の再編成といった歴史的条件のもとで、これらは相互に影響し合いながら進行しました。

その結果として生まれた中英語は、古英語とは異なる新しい言語体系でありながら、現代英語へと直接つながる骨格をすでに備えていたのです。

 

実はフランス由来だった英単語たち

ここで、ノルマン征服以後にフランス語(主にノルマン・フランス語)から流入し、現代英語でもごく普通に使われている語彙をいくつか例示してみます。

分野別に挙げますので、「英語だと思っていた語の多くがフランス由来である」ことが直感的に伝わるはずです。

政治・統治・社会制度

  • government(政府)
  • crown(王権)
  • state(国家)
  • authority(権威)
  • parliament(議会)
  • power(権力)
  • public(公共の)
  • council(評議会)

法律・司法

  • law(※北欧語由来ですが、周辺語と対比しやすいため文脈上重要)
  • court(裁判所)
  • judge(裁判官)
  • justice(正義・司法)
  • crime(犯罪)
  • prison(刑務所)
  • evidence(証拠)
  • sentence(判決・文)

軍事・支配

  • army(軍隊)
  • battle(戦闘)
  • soldier(兵士)
  • enemy(敵)
  • officer(将校)
  • guard(護衛)

食文化(支配層と被支配層の分断が見える語彙)

  • beef(牛肉)
  • pork(豚肉)
  • mutton(羊肉)
  • veal(子牛肉)
  • venison(鹿肉)
  • cuisine(料理)

文化・芸術・知的活動

  • art(芸術)
  • culture(文化)
  • music(音楽)
  • literature(文学)
  • poetry(詩)
  • painting(絵画)
  • beauty(美)

抽象概念・感情表現

  • peace(平和)
  • liberty(自由)
  • pleasure(喜び)
  • desire(欲望)
  • honor(名誉)
  • reason(理性)
  • virtue(徳)

日常語として完全に定着したもの

  • very(とても)
  • age(年齢)
  • face(顔)
  • place(場所)
  • change(変化)
  • use(使う)
  • move(動く)

これらの語彙は、現代英語話者にとっては「外来語」という意識すらほとんどありません。

しかし、中英語期において、フランス語が権力・教養・洗練を担う言語であったことの痕跡として、英語の内部に深く刻み込まれたものでした。

 

中英語期を代表する文学者チョーサー

ここでジェフリー・チョーサーという文学者にふれておきます。

チョーサーは、中英語を代表する文学者であり、英文学史において特別な位置を占める人物です。

14世紀後半に活躍したチョーサーは、それまで主に話し言葉として用いられていた英語を、本格的な文学表現の言語として確立した作家として評価されています。

 

チョーサーが生きた時代、学問や公的文書の言語はラテン語、上流階級の文化語はフランス語であり、英語は依然として低い社会的地位に置かれていました。

そのような状況のなかで、チョーサーはあえて英語で作品を書きました。

これは単なる個人的選択ではなく、英語が再び書き言葉として社会に復帰していく過程を象徴する行為であったと言えます。

 

チョーサーの代表作である『カンタベリー物語』は、巡礼に向かう人々が語り合う物語を集めた作品で、騎士、聖職者、商人、農民など、さまざまな社会階層の人物が登場します。

この構成によって、作品には多様な語彙や文体が自然に取り込まれ、中英語の豊かな表現力が生き生きと示されています。

チョーサーの英語は、日常語としての英語と、フランス語由来の洗練された語彙とが融合したものであり、中英語の到達点を示すものと考えられています。

 

また、チョーサーが用いたロンドン周辺の方言は、後に印刷術の普及とともに事実上の標準英語へとつながっていきます。

その意味で、チョーサーは単なる文学者ではなく、英語史の観点から見ても重要な存在です。

彼の作品は、中英語が地方的な話し言葉の集合体から、共通の書き言葉へと変わりつつあったことを示す、貴重な言語資料でもあります。

 

チョーサーの功績は、英語で優れた文学が書けることを示した点にあります。

彼の成功によって、英語はラテン語やフランス語に劣らない表現力を持つ言語として認識されるようになり、その後の英文学と英語の発展に決定的な道を開いたのです。

 

そして近世英語の時代へ

中英語の時代は、英語が社会的地位を回復し、文学や行政の場で再び用いられるようになった時期でしたが、その変化はここで終わるわけではありません。

15世紀後半から16世紀にかけて、英語はさらに大きな転換点を迎え、中英語から近世英語へと移行していきます。

この移行期は、言語そのものの変化と社会的環境の変化とが強く結びついた時代でした。

中英語が築いた語彙の豊かさと文法的な骨格の上に、発音の変化と書き言葉の標準化が重なり、近世英語という新たな段階が成立していくのです。

次に扱う近世英語の時代は、こうした変化が本格的に結実し、シェイクスピアの英語へとつながっていく時代として位置づけることができます。

 

前回(古英語)の記事

英語の歴史1 古英語とは何か|英語が別物だった時代
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