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英語の歴史1 古英語とは何か|英語が別物だった時代

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英語は、最初から今のような姿をしていたわけではありません。

私たちが日常的に使っている英語は、長い歴史の中で、劇的な変化と断絶を経験してきた言語です。

その出発点にあたるのが、古英語です。

古英語は、見た目も構造も、現代英語とはまったく異なります。

一見すると英語とは思えないその姿は、多くの英語学習者や読書好きに強い違和感を与えます。

しかし、その違和感こそが、英語という言語の本質に近づくための入口でもあります。

この記事では、英語のルーツであるインド・ヨーロッパ語族から出発し、古英語がどのような言語だったのかを見ていきます。

古英語を知ることは、英語史の知識を増やすことにとどまりません。

なぜ英語は語順にうるさいのか、なぜ語彙がこれほど雑多なのか、なぜ綴りと発音が食い違うのか。

そうした素朴な疑問に、歴史的な答えを与えてくれます。

英語を学んできた人にとっても、これから学ぼうとする人にとっても、英語の「正体」を理解するための手がかりになるはずです。

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古英語は私たちの知っている英語とはまったく違う

英語の辞書を読む外国人少女

英語の歴史に興味をもって「古英語」という言葉を聞くと、多くの人は「少し古風な英語」「シェイクスピアよりさらに昔の英語」といったイメージを抱くだけかもしれません。

しかし、実際の古英語を目にすると、その印象は一瞬で裏切られます。

古英語は、私たちが学校や日常で触れてきた英語とは、見た目のうえでも、仕組みのうえでも、ほとんど別の言語のように感じられるからです。

たとえば、古英語文学でもっとも有名な作品『ベーオウルフ』は、次のような一文で始まります。

Hwæt! Wē Gār-Dena in geārdagum, þēodcyninga þrym gefrūnon.

これが古英語です。

多くの人は、これを見た瞬間に英語だとは思えないはずです。アルファベットは使われていますが、þ(ソーン)や、現代英語では見かけない文字が含まれ、単語の形も見慣れたものとは大きく異なります。

語順も今の英語の感覚ではつかみにくく、辞書を引いてもすぐには意味が見えてきません。

英文学に親しんできた人であっても、古英語の文章は強い違和感をもって立ち現れます。

 

この違和感の正体は、「難しさ」だけではありません。むしろ重要なのは、古英語が、現代英語とはまったく異なる前提のもとで成り立っている言語だという点です。

現代英語は、語順が意味を決め、助動詞や前置詞が重要な役割を果たす、比較的シンプルな文法構造をもっています。

しかし古英語では、単語そのものが形を変えることで文の役割を示していました。名詞や形容詞は格によって変化し、動詞も人称や数によって細かく形を変えます。その結果、語順は今よりもずっと自由で、文の意味は語形の変化によって支えられていたのです。

 

語彙の面でも、古英語は大きく異なります。

現代英語にあふれているラテン語やフランス語由来の単語は、古英語の段階ではまだほとんど存在していません。

古英語の語彙の中心にあるのは、ゲルマン系の語です。

そのため、たとえ意味の上で対応する単語があったとしても、見た目や響きは現代英語とはかなり違って感じられます。

 

さらに、発音と綴りの関係も、私たちの知っている英語とは逆の印象を与えます。

現代英語では、綴りと発音が一致しないことが当たり前になっていますが、古英語では原則として「書いてある通りに読む」言語でした。

この点だけを見ると、古英語のほうが合理的に思えるほどです。

 

このように、古英語は「英語の古い形」というよりも、「英語の祖先にあたる別の言語」と考えたほうが理解しやすい存在です。

私たちが知っている英語は、長い時間をかけて、大きな変化と断絶を経て形づくられてきました。

その出発点にあたる古英語をのぞいてみると、英語という言語がいかに劇的な変化を経験してきたのかが、はっきりと見えてきます。

 

この違和感こそが、古英語を学ぶ面白さの入り口です。

なぜ英語はここまで変わったのか。なぜ、あの「英語らしくない英語」が、私たちの使っている英語へとつながっているのか。

その答えを探るために、次に英語のルーツから順に見ていきましょう。

 

英語のルーツ:インド・ヨーロッパ語族と英語

古英語を理解するためには、まず英語という言語がどこから来たのか、つまりその系統を簡単に押さえておく必要があります。

英語は孤立した言語ではなく、非常に大きな言語の家族の一員です。その家族が、インド・ヨーロッパ語族と呼ばれるものです。

 

インド・ヨーロッパ語族とは、ヨーロッパからインドにかけて広く分布する、多数の言語を含む言語系統のことです。

英語だけでなく、

ドイツ語
フランス語
スペイン語
ロシア語
ギリシャ語
ラテン語
サンスクリット語

なども、この語族に属しています。

地域も文化も大きく異なるこれらの言語が、共通の祖先をもっていると考えられている点が、インド・ヨーロッパ語族の最大の特徴です。

 

この共通の祖先は、印欧祖語と呼ばれます。

文字資料は残っていませんが、複数の言語を比較することで、その存在とおおよその姿が復元されています。

たとえば、

英語の father
ラテン語の pater
ギリシャ語の patēr
サンスクリット語の pitar

は、形も意味もよく似ています。これらは偶然ではなく、同じ祖語に由来する単語が、長い時間の中でそれぞれの言語へ分かれていった結果です。

 

重要なのは、古英語がこの印欧的な特徴を、現代英語よりもはっきりと残している点です。

印欧祖語は、語順よりも語形変化によって文の意味を表す言語でした。名詞には格があり、動詞は人称や数によって変化します。

この仕組みは、ラテン語や古代ギリシャ語にはよく知られていますが、古英語もまた、同じ発想に基づいた文法をもっていました。

そのため、古英語の文法が複雑に見えるのは、英語が「特別に難しかった」からではありません。むしろ、英語が本来もっていた印欧語的な性格が、まだ十分に残っていたからです。

現代英語のほうが例外的に単純化されている、と考えたほうが正確でしょう。

 

もう一つ重要なのは、英語がインド・ヨーロッパ語族の中でも、ゲルマン語派に属している点です。

ゲルマン語派には、英語のほかに、ドイツ語、オランダ語、北欧諸語などが含まれます。

これらの言語に共通する特徴として、語彙の中核がゲルマン系であること、動詞の強変化と弱変化の区別があること、時制表現に助動詞が発達していることなどが挙げられます。

 

古英語は、このゲルマン語派の特徴を色濃く備えた言語でした。

後の時代に大量のラテン語・フランス語語彙が流入する以前の英語であるため、語彙の大部分はゲルマン系です。

その結果、古英語の語彙や文法は、現代英語よりも、むしろドイツ語や古ノルド語に近い印象を与えます。

 

このように、古英語を理解するためには、英語を「今ある姿」からさかのぼって見るのではなく、インド・ヨーロッパ語族という大きな枠組みの中に位置づける視点が欠かせません。

英語は最初から今のような形をしていたわけではなく、印欧語的な言語として生まれ、ゲルマン語として発展し、その後に大きな変化を経験してきました。

その出発点にあるのが、古英語なのです。

 

古英語とは何か:ベーオウルフとその時代

古英語とは、おおよそ5世紀から11世紀にかけて、現在のイングランド地域で話され、書かれていた英語を指します。

この時代の英語は、ローマ支配の終焉後にブリテン島へ渡ってきたアングル人、サクソン人、ジュート人といったゲルマン系諸部族の言語を基盤として形成されました。

そのため、古英語はしばしばアングロ・サクソン語とも呼ばれます。

 

古英語が成立した当初のイングランドは、政治的にも文化的にも統一された国家ではありませんでした。いくつもの王国が並び立ち、それぞれが独自の権力と伝統をもっていました。

この分裂した社会構造は、言語にも反映され、古英語にはいくつかの方言が存在しました。

代表的なものとして、

ウェセックス方言
マーシア方言
ノーサンブリア方言

などが知られています。

私たちが現在読むことのできる古英語文学の多くは、後期に優勢となったウェセックス方言で書き写されたものです。

 

この時代の社会は、口承文化を基盤としていました。物語や歴史、価値観は、文字ではなく、語りによって受け継がれてきました。詩人は人々の前で物語を語り、英雄の行為や祖先の栄光を歌いました。

古英語文学の多くが詩の形をとっているのは、この口承文化の伝統を反映しています。

『ベーオウルフ』は、そうした古英語文化を代表する作品です。

この叙事詩は、6世紀頃のスカンディナヴィア世界を舞台とし、怪物グレンデルやその母、そして竜と戦う英雄ベーオウルフの生涯を描いています。

物語の舞台はイングランドではありませんが、作品が古英語で書かれ、イングランドで書写・保存された点に、その文化的意義があります。

『ベーオウルフ』は、古英語で書かれた最長かつ最重要の文学作品であり、古英語という言語の姿を知るための最も豊かな資料でもあります。

 

『ベーオウルフ』の言語は、古英語の特徴をよく示しています。

強勢に基づく頭韻詩の形式が用いられ、文法的には格変化や動詞の活用が多用されています。

また、語彙にはゲルマン的な言い回しが多く、複数の語を組み合わせた比喩表現、いわゆるケニングも頻繁に現れます。

こうした表現は、古英語が抽象的な概念を、具体的で身体的なイメージによって捉える言語であったことを物語っています。

 

一方で、『ベーオウルフ』は単なる異教的英雄譚ではありません。

作中にはキリスト教的な価値観や聖書的な世界観が随所に織り込まれています。

これは、古英語の時代が、異教的なゲルマン文化とキリスト教文化が交錯する過渡期であったことを示しています。

修道院を中心とした学問と書写の活動によって、口承で伝えられてきた物語が文字として固定され、その過程で新しい宗教的視点が付け加えられました。

 

この点から見ても、『ベーオウルフ』は、単に一つの文学作品であるだけでなく、古英語という言語が置かれていた歴史的・文化的状況を映し出す鏡のような存在です。

古英語とは、ゲルマン的な言語構造と口承文化を基盤としながら、キリスト教的知と文字文化を取り込みつつ発展していた言語でした。

その最も象徴的な姿が、『ベーオウルフ』に結晶しています。

 

古英語の語彙・文法・発音(現代英語との比較)

アルファベットの列

古英語の語彙・文法・発音を理解するためには、常に現代英語と比較しながら見ることが有効です。

そうすることで、古英語が単なる「難しい昔の英語」ではなく、現代英語とは異なる原理で動いていた言語であることがはっきりと見えてきます。

古英語の語彙

まず語彙について見てみましょう。

古英語の語彙の大部分は、ゲルマン系の語から成り立っています。

現代英語では、ラテン語やフランス語由来の語彙が数多く使われていますが、それらの多くは後の時代、とくにノルマン征服以降に流入したものです。

古英語では、日常語から文学的表現まで、ほぼすべてがゲルマン系の語で表現されていました。

そのため、意味の上では対応する語があっても、語形や響きは現代英語とは大きく異なります。

 

一方で、現代英語の基本語彙の中にも、古英語から直接受け継がれている語が数多くあります。

man
woman
house
stone
water
bread
sing
drink

などは、その代表例です。

これらの語は、形を多少変えながらも、古英語の時代から連綿と使われ続けてきました。

この点を見ると、古英語は完全に断絶した言語ではなく、現代英語の土台を確かに形づくっていることがわかります。

古英語の文法

次に文法です。古英語の文法は、現代英語と比べると、はるかに屈折的でした。

名詞には主格・属格・与格・対格といった格の区別があり、形容詞も名詞に合わせて形を変えます。動詞も、人称や数、時制によって細かく活用しました。

そのため、文の中で単語がどの役割を果たしているのかは、語順ではなく語形の変化によって示されていました

この点で、古英語はラテン語や古代ギリシャ語に近い性格をもっています。

語順は比較的自由で、強調したい語を前に出すことも可能でした。

現代英語のように「主語+動詞+目的語」という語順が厳密に決まっていたわけではありません。

現代英語話者が古英語を読みにくく感じる最大の理由の一つは、この語順依存の感覚が通用しない点にあります。

古英語の発音

発音の面でも、古英語は現代英語とは大きく異なります。

古英語では、基本的に綴りと発音が一致していました。

母音ははっきりと発音され、現代英語のような曖昧母音はほとんど存在しませんでした。

また、語の強勢は比較的規則的で、多くの場合、語の最初の音節に置かれていました。この強勢の特徴は、頭韻詩という詩の形式とも深く結びついています。

 

現代英語では、歴史的な音変化の積み重ねによって、綴りと発音のずれが拡大しています

とくに大母音推移以降、母音の体系は大きく変化しましたが、綴りはそのまま残りました。

その結果、英語は「発音しにくく、綴りにくい言語」として知られるようになりました。古英語は、その対極にある存在だと言えます。

 

このように、語彙・文法・発音のいずれの点をとっても、古英語は現代英語とはまったく異なる特徴を備えています。

しかし同時に、現代英語の中に残る基本語彙や文法の痕跡をたどることで、両者の間につながりを見いだすこともできます。

古英語を知ることは、英語がどこから来て、どのように今の姿になったのかを理解するための、最も確かな手がかりなのです。

 

そして中英語へ:ノルマン征服という断絶

古英語から中英語への移行は、英語史の中でも最大の転換点の一つです。

この変化は、単なる時間の経過による緩やかな変化ではなく、歴史的事件によって引き起こされた、はっきりとした断絶として理解することができます。

その決定的な出来事が、1066年のノルマン征服です。

ノルマン征服によって、イングランドの支配層は一変しました。

ウィリアム征服王とともにやってきたノルマン人は、フランス語を母語とする支配階級でした。

それまで政治・軍事・宗教の中心にあった古英語は、支配層の言語としての地位を失い、宮廷や行政、法の場ではフランス語が使われるようになります。

一方、民衆の間では古英語が話され続けました。この言語的分断は、数世代にわたって続きます。

こうして生まれたのが中英語です。

中英語は、古英語の骨格を部分的に残しつつも、語彙・文法・音韻のすべてにおいて大きく姿を変えた言語でした。

ノルマン征服は、英語を一度「壊した」出来事だったとも言えます。しかし、その破壊があったからこそ、英語は柔軟で雑種的な言語へと変貌しました。

現代英語は、この断絶の上に築かれています。古英語から中英語への移行を知ることは、英語がなぜ今のような姿をしているのかを理解するうえで、避けて通れない視点なのです。

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