2020年に発売され反響を呼びベストセラーにもなった、今井むつみ『英語独習法』(岩波新書)。
著者は認知科学の専門家で、認知科学の観点から効果的な英語学習法を解き明かす内容。
今更読んでみました。
認知科学の本としては興味深い内容です。
しかし、英語学習書として見ると悪書になりうるかも。というのも、主眼として打ち出している方法があまりにハードルが高いんですよね。英語嫌いを量産しそう。
とはいえ英語学習者にとって有益な情報もたくさん含まれているので、スルーするのももったいない。
ということで、この記事では認知科学的な難しい話はスルーし、即効性のある有益情報をピックアップして紹介しようと思います。
英語のスキーマを育てるには語彙増強しかない
本書のメインテーマは英語の「スキーマ」を育てること。スキーマとは背景知識みたいなもの。
日本人には日本人の、アメリカ人にはアメリカ人の、言語や文化からなる膨大な意味ネットワークがありますよね。それがスキーマ。
そしてそれを共有することが、外国語の習得において欠かせないと著者は言います。

どうやったらスキーマを日本用のものから英語圏のものに寄せていけるの?
語彙を増やすことがその秘訣だと本書は言います。
とはいえ、伝統的な単語集みたいなのをゴリゴリ暗記するのでは駄目。
むしろ、生きた場面での生きた英語を吸収することが重要とのこと。そして個々の語彙の微妙なニュアンスの違いを意識してそれぞれの単語を体得していくのが重要です。
本書では「コーパス」と呼ばれる方法を提唱しています。膨大なデータベースを手作業で作っていくんですね。
このへんは、上級者が超上級者になるには重要な指摘かも。でもほとんどの英語学習者にとっては、ハードルが高すぎる話だと思われます。無理に真似する必要はないでしょう。
語彙を増やす方法~熟読と映画熟見~
日本の英語教育はインプットに偏りすぎだと著者は言います。アウトプットも含めた4技能を総合的に学習するのが大事。
とはいえ、最初から4技能をまんべんなく学習するのは非効率です。単語を知らなければ聞くことも話すことも書くこともできないので。だから語彙増強がなによりも大事ということになります。

じゃあ、どうやって語彙を増やすのがいいんだろう?
まず多読はNGとのこと。
多読というのは、出てくる単語の意味をほとんど知っている本で行わないと効果が出ないんですね。そこで既知の単語のニュアンスを深めたり、知らない単語の意味を文脈から推測したりして英語力を洗練させていく活動が多読です。
これは第二言語習得研究の知見とも一致しています。多読は、登場する単語の98%を知っている書籍で行うのが望ましいとされますので。
語彙増強には多読ではなく熟読じゃないと駄目なわけです。個人的には速読英単語シリーズだけやっておけばいいと思います。

洋画は最初に日本語字幕で見て、次に英語字幕で見る
また本書では映画を活用することが強くおすすめされています。
ただしストーリーを理解するだけでは語彙は増えません。むしろ好きな映画をじっくりと見るのが重要です。すべてのセリフを覚えてしまうくらいじっくりと。これを熟見といいます。
・まず日本語字幕でみる→次に英語字幕で見る。
この順序が大切。
まず日本語字幕で見ると負荷が減り、脳のリソースを英単語の聞き取りにフルに使えます。
そして英語字幕で原文を確認することで驚きを得られます。「こんなこと言ってたのか」とか「こういう表現をここで使うのか」とか。この驚きが学習をブーストさせ、語彙の暗記が圧倒的に深くなるのです。
最初から英語字幕で見てしまうと、情報がスルッと流れていってしまい頭の中に刻まれません。
英語字幕で見ていたひとは多いのでは?僕はそうでした。これからは日本語字幕も活用しようと思います。
なお映画やドラマは難しすぎてはいけないとのこと。字幕なしでもストーリーが漠然と理解できるぐらいの難易度なら効果が出るそうです。
・語彙を増やすには多読より熟読
・好きな映画をじっくりと熟見する
・まず日本語字幕で見て次に英語字幕で見る
リスニングの勉強法~文脈が大事~
「リスニングよりも語彙習得を優先せよ。なぜなら語彙を知らなければ聞くこともできないから」。
これが第一に強調されています。
またリスニングは背景の文脈まで総動員して行われる活動。だから背景知識の共有が重要になります。
逆に、背景知識なしで英文だけをポンポン投げかけられるようなリスニングは負荷が高すぎます。
だから大学入試や英検、TOEICといった試験用の教材が、実はいちばん難しいんですね。文脈がないから。したがってこれらの教材を使うのはよくないとのこと(テスト直前の試験勉強のときは使うべきですが)
普段の学習では、豊かな文脈とともに英語音声を提供してくれる教材を使うほうがいいでしょう。映画やドラマはうってつけです。
・多文脈な情報を与えてくれる教材(映画など)を使う

スピーキングよりライティングを先に学べ
いよいよアウトプットの練習。スピーキングとライティングどちらを優先すべきか?
本書はライティングを先に学習すべきと主張します。
スピーキングはあまりにも負荷が高いんですね。リアルタイムで進行するし、リスニング能力が前提となるし、何より語彙力が必要。リスニングと同様、スピーキングも語彙がなければ行えません。
しかしライティングなら自分のペースで行えます。知らない単語は調べればいいですし。
そしてライティングができるようになれば、スピーキングは短時間の集中練習ですぐにできるようになると著者は言います。
生徒同士の会話トレーニングみたいな授業も、効果を発揮するのはここから。語彙も不十分で、ライティングも出来ない段階の生徒同士を会話させても、効果ないそうです。
・ライティングができるようになればスピーキングは短時間の集中学習で身につく

まとめ
以上、今井むつみ『英語独習法』(岩波新書)の紹介でした。
まともに通読しようとすると、変なレベルが高すぎて心が折れそうになる本。しかし、あらゆる英語学習者に効くお役立ち情報を豊富に内蔵しているのも事実です。
この本を買うなら、第7章以降の具体的学習法のところから読むのをおすすめします。そうすればスムーズに内容を吸収できるでしょう。
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