今井むつみ『英語独習法』(岩波新書)という本があります。
著者は認知科学の専門家で、認知科学の観点から効果的な英語学習法を解き明かす、という内容の本。
数年前に話題になった新書ですが、今更読んでみました。
認知科学の本として見れば興味深いのは確か。しかし英語学習書として見ると悪書になりうるかも。というのも、主眼として打ち出している方法があまりにハードル高いんですよね。英語嫌いを量産しそう。
とはいえ英語学習者にとって有益な情報もたくさん含まれているので、スルーするのももったいない。
この記事では認知科学的な話は無視して、英語学習についての有益情報に焦点を当てて紹介しようと思います。
英語のスキーマを育てるには語彙増強しかない
本書のメインテーマは英語の「スキーマ」を育てること。スキーマというのは背景知識みたいなもの。
日本人には日本人の、アメリカ人にはアメリカ人の、言語や文化からなる膨大な意味ネットワークがありますよね。それがスキーマ。
そしてそれを共有することが外国語の習得において欠かせないと。
ではどうやったらスキーマを日本用のものから英語圏のものに寄せていけるのか?
語彙を増やすことがそれだと本書は言います。
とはいえ伝統的な単語集みたいなのをゴリゴリ暗記するのでは駄目。むしろ生きた場面での生きた英語を吸収することが重要とのこと。そして個々の語彙の微妙なニュアンスの違いを意識してそれぞれの単語を体得していきます。
本書では「コーパス」と呼ばれる方法を提唱しています。膨大なデータベースを手作業で作っていくんですね。
このへんはついて行けない感じ。上級者が超上級者になるには重要な指摘かもしれない。でもほとんどの英語学習者にとってはハードルが高すぎる話だと思われます。
語彙を増やす方法~熟読と映画熟見~
日本の英語教育はインプットに偏りすぎ。アウトプットも含めた4技能を総合的に学習するのが大事。
とはいえ、最初から4技能をまんべんなく学習するのは非効率。単語を知らなければ聞くことも話すことも書くこともできないから。だから語彙増強がなによりも大事ということになります。
ではどうやって語彙を増やすか?
まず多読はNGとのこと。
多読というのは出てくる単語の意味をほとんど知っている本で行わないと効果が出ないんですね。そこで既知の単語のニュアンスを深めたり、知らない単語の意味を文脈から推測したりして英語力を洗練させていく活動が多読。
これは第二言語習得研究の知見とも一致しています。多読は、登場する単語の98%を知っている書籍で行うのが望ましいとされますので。
語彙増強には多読ではなく熟読じゃないと駄目なわけです。個人的には速読英単語シリーズだけやっとけばいいと思います。
また本書では映画を活用することが強くおすすめされています。
ただしストーリーを理解するだけでは語彙は増えない。むしろ好きな映画をじっくりと見るのが重要。すべてのセリフを覚えてしまうくらいじっくりと。これを熟見といいます。
まず日本語字幕でみる→次に英語字幕で見る。この順序が大切。
まず日本語字幕で見ると負荷が減り、脳のリソースを英単語の聞き取りにフルに使えます。
そして英語字幕で原文を確認することで驚きを得られる。「こんなこと言ってたのか」とか「こういう表現をここで使うのか」とか。この驚きが学習をブーストさせ、語彙の暗記が圧倒的に深くなる。
最初から英語字幕で見てしまうと情報がスルッと流れていってしまい頭の中に刻まれない。
英語字幕で見ていたひとは多いのでは?僕はそうでした。これからは日本語字幕も活用しようと思います。
なお映画やドラマは難しすぎてはいけないとのこと。字幕なしでもストーリーが漠然と理解できるぐらいの難易度なら効果が出るそうです。
・語彙を増やすには多読より熟読
・好きな映画をじっくりと熟見する
・まず日本語字幕で見て次に英語字幕で見る
リスニングの勉強法~文脈が大事~
リスニングよりも語彙習得を優先せよ。なぜなら語彙を知らなければ聞くこともできないから。これが第一に強調されています。
またリスニングは背景の文脈まで総動員して行われる活動。だから背景知識の共有が重要になります。
逆に背景知識なしで英文だけをポンポン投げかけられるようなリスニングは負荷が高すぎる。
だから大学入試や英検、TOEICといった試験用の教材が実はいちばん難しい。文脈がないから。したがってこれらの教材を使うのはよくない(テスト直前の試験勉強のときは使うべき)
普段の学習では豊かな文脈とともに英語音声を提供してくれる教材を使うほうがいい。例えば映画やドラマはうってつけ。
・多文脈な情報を与えてくれる教材(映画など)を使う
スピーキングとライティングの勉強法
いよいよアウトプットの練習。スピーキングとライティングどちらを優先すべきか?
本書はライティングを先に学習すべきと主張します。
スピーキングはあまりにも負荷が高いんですね。リアルタイムで進行するし、リスニング能力が前提となるし、何より語彙力が必要。リスニングと同様、スピーキングも語彙がなければ行えない。
しかしライティングなら自分のペースで行える。知らない単語は調べればいい。
そしてライティングができるようになれば、スピーキングは短時間の集中練習ですぐにできるようになるとのこと。
生徒同士の会話トレーニングみたいな授業も、効果を発揮するのはここから。語彙も不十分でライティングも出来ない段階の生徒同士を会話させても効果ないそうです。
・ライティングができるようになればスピーキングは短時間の集中学習で身につく
まとめ
以上、今井むつみ『英語独習法』(岩波新書)の紹介でした。
まともに通読しようとすると変なほうにレベルが高すぎて心が折れそうになる本。しかしあらゆる英語学習者に効くお役立ち情報を豊富に内蔵しているのも事実。
この本を買うなら、第7章以降の具体的学習法のところから読むのをおすすめします。
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