今回はJ.K.ローリングのハリーポッターを原書で読んでみます。
1990年代のイギリスから登場した超人気シリーズ。現代を代表するファンタジー作品として日本でもヒットしました。
全7巻。後半に進むほど分量も文章の難しさも増していくという面白い構成。今回は第1巻の冒頭部分を英語で読んでみましょう。
ちなみにこの作品は映画のほうが有名ですが、原作はそれ以上に面白いので、読書が嫌いでなければ読むべきですよ。
ハリーポッター『賢者の石』を原書で読んでみる
冒頭部分をぜんぶ引用してみます。
Mr and Mrs Dursley, of number four, Privet Drive, were proud to say that they were perfectly normal, thank you very much. They were the last people you’d expect to be involved in anything strange or mysterious, because they just didn’t hold with such nonsense.
Mr Dursley was the director of a firm called Grunnings, which made drills. He was a big, beefy man with hardly any neck, although he did have a very large moustache. Mrs Dursley was thin and blonde and had nearly twice the usual amount of neck, which came in very useful as she spent so much of her time craning over garden fences, spying on the neighbours. The Dursleys had a small son called Dudley and in their opinion there was no finer boy anywhere.
The Dursleys had everything they wanted, but they also had a secret, and their greatest fear was that somebody would discover it. They didn’t think they could bear it if anyone found out about the Potters. Mrs Potter was Mrs Dursley’s sister, but they hadn’t met for several years; in fact, Mrs Dursley pretended she didn’t have a sister, because her sister and her good-for-nothing husband were as unDursleyish as it was possible to be. The Dursleys shuddered to think what the neighbours would say if the Potters arrived in the street. The Dursleys knew that the Potters had a small son, too, but they had never even seen him. This boy was another good reason for keeping the Potters away; they didn’t want Dudley mixing with a child like that.
When Mr and Mrs Dursley woke up on the dull, grey Tuesday our story starts, there was nothing about the cloudy sky outside to suggest that strange and mysterious things would soon be happening all over the country.
では最初の文章から順番に見ていきましょう。
Mr and Mrs Dursley, of number four, Privet Drive, were proud to say that they were perfectly normal, thank you very much.
「プリベット通り四番地に住むダーズリー夫妻は、「お陰さまで私たちは非の打ち所がないほどまともなんですよ」と自慢にしているような夫婦だった。」
いきなり解釈の難しい文章が登場。
まず「of number four, Privet Drive」のところで面食らいます。このofは「~に属する」のニュアンスがそのまま出ていて、訳は「プリベット通り四番地に住む」となります。
「were proud to say」は「誇らしげに言う」と訳す。
ここのnormalは「異常なところがない」みたいなニュアンス。これから始まる魔法世界との対比が込められてます。
一番の問題は最後の「thank you very much」。これどうなってるの?
これはいわゆる描出話法と見なすことができ、実はダーズリー夫妻の心の内をそのまま書き出しています。だから訳すときは、あたかもダーズリー夫妻が発話したかのように直接話法的に訳すとしっくりきます。
They were the last people you’d expect to be involved in anything strange or mysterious, because they just didn’t hold with such nonsense.
「不思議とか神秘とか、そういうたぐいのことにはまったく関与せず、そんな馬鹿げたことがと一蹴するような人たちだった」
「the last~to~」は学校でよく習うやつ。~する最後の人=~しないような人。
Mr Dursley was the director of a firm called Grunnings, which made drills.
「ダーズリー氏は、ドリル製造をしているグラニングズ社の取締役だった。」
日本語訳では先にwhich以下を訳しそれをグラニング社に修飾させています。が、英文を読む段階ではもちろん左から右へと順番どおりに読みます。
ダーズリーはとある会社の取締役だった→その会社はグラニングと呼ばれる→その会社はドリル製造をしている。
He was a big, beefy man with hardly any neck, although he did have a very large moustache.
「大きな体型をした肉付きがいい人で、首がほとんど埋もれ、とても大きな口ヒゲが生えている。」
ここは英文の順番通りに訳している点に注目。
・moustache 口ひげ
Mrs Dursley was thin and blonde and had nearly twice the usual amount of neck, which came in very useful as she spent so much of her time craning over garden fences, spying on the neighbours.
「奥さんのほうは痩せていて金髪で、首の長さが普通の人の二倍近くもあった。彼女はその長い首で垣根越しに、いつもご近所の様子を覗き見しているのだった。」
けっこう長くて難しめの文。こういうときは分割して考えます。
まず前半の「Mrs Dursley was thin and blonde and had nearly twice the usual amount of neck,」まででひとまず完結。
・twice the amount of ~の2倍
次に「which came in very useful」が来ます。このwhichは「長い首」のこと。which(長い首)がcame in very useful(とても便利)だった。どんな時に便利だったのか?それを説明するのがas以下。
「as she spent so much of her time craning over garden fences, spying on the neighbours」。垣根越しに近所の行動をスパイするときに長い首は便利。
・crane over 鶴の首のように伸ばす
The Dursleys had a small son called Dudley and in their opinion there was no finer boy anywhere.
「ダーズリー夫妻には、ダドリーという名前の男の子がいた。夫妻に言わせると『どこを探したってこんなに出来のいい子はいやしない』らしかった。」
The Dursleys had everything they wanted, but they also had a secret, and their greatest fear was that somebody would discover it.
「ほしいものはなんでも揃っているダーズリー家だったが、秘密にしていることもあった。そして、その秘密がだれかにバレてしまうことを何よりも怖れていた。」
The Dursleysは「ダーズリーたち」にtheがついています。これは「ダーズリー家」という意味。
They didn’t think they could bear it if anyone found out about the Potters.
「あのポッター一家のことが誰かに知られてしまったら、とても耐えられないと考えていたのだった。」
また同じ用法。the Pottersでポッター一家。
ifのなかのfind outが過去形になっているのは仮定法だからです。
Mrs Potter was Mrs Dursley’s sister, but they hadn’t met for several years; in fact, Mrs Dursley pretended she didn’t have a sister, because her sister and her good-for-nothing husband were as unDursleyish as it was possible to be.
「ポッター夫人はダーズリー氏の奥さんの妹なのだけれども、二人はここ数年一度も会っていなかった。それどころかダーズリー夫人は、自分には妹などいやしないという振りをしていた。なにしろ、妹もなんの役にも立たないその夫も、ダーズリー家の家風とはまるっきり正反対だったから。」
as unDursleyish as it was possible to beは独特な表現。
Dursleyishは造語で「ダーズリー一家っぽい」という意味。それに否定のunがついて「ダーズリー一家っぽくない」。
as~as it was possibleは「考えられる限り最大限に~」。だから「これ以上ないほどダーズリー一家ぽくない」という意味になります。
・good-for-nothing 役に立たない
The Dursleys shuddered to think what the neighbours would say if the Potters arrived in the street.
「ポッター家がそのへんに顔を出したら、ご近所の人たちは何て言うだろう。それを考えただけで、ダーズリー家の者たちは身の毛がよだつのだった。」
「what the neighbours would say if the Potters arrived in the street」。ここは仮定法。ifのなかのarriveが過去形の形になり、sayの前にはwouldがあるのですぐわかる。
ダーズリー氏は、ポッターたちが現れるのは非現実的でほぼ起こりえないと考えているわけですね。だからその可能性を考えるときに、現実に反する仮定法が使われます。
・shudder 震える
The Dursleys knew that the Potters had a small son, too, but they had never even seen him.
「ポッター家にも小さな男の子がいることをダーズリー夫妻は知っていたが、ただの一度もその子に会ったことはなかった。」
この男の子は主人公のハリーのこと。evenは否定を強調していて「会ったことさえない」というニュアンスを出しています。
This boy was another good reason for keeping the Potters away; they didn’t want Dudley mixing with a child like that.
「その子供のこともポッター家を遠ざけていた理由の一つだった。その子と、自分たちのダドリーが関わり合いになることが嫌だったのだ。」
When Mr and Mrs Dursley woke up on the dull, grey Tuesday our story starts, there was nothing about the cloudy sky outside to suggest that strange and mysterious things would soon be happening all over the country.
「ある火曜日の朝、ダーズリー夫妻が目を覚ますと、外は灰色の空でどんよりとしていた。ここからわれわれの物語ははじまる。だが、国全体を巻き込んだ摩訶不思議な出来事が間もなく起ころうとしていることなど、曇り空のどこにも感じられなかった。」
would soon be happeningは現在進行系ですが、「これから~する」という未来の出来事を表す用法。
・there was nothing about A to suggest B Bを示唆するものはAのどこにもなかった
最後に訳をまとめておきます。
「プリベット通り四番地に住むダーズリー夫妻は、「お陰さまで私たちは非の打ち所がないほどまともなんですよ」と自慢にしているような夫婦だった。不思議とか神秘とか、そういうたぐいのことにはまったく関与せず、そんな馬鹿げたことがと一蹴するような人たちだった。
ダーズリー氏は、ドリル製造をしているグラニングズ社の取締役だ。大きな体型をした肉付きがいい人で、首がほとんど埋もれ、とても大きな口ヒゲを生やしている。奥さんのほうは痩せていて金髪で、首の長さが普通の人の二倍近くもあった。彼女はその長い首で垣根越しに、いつもご近所の様子を覗き見しているのだった。ダーズリー夫妻には、ダドリーという名前の男の子がいた。夫妻に言わせると『どこを探したってこんなに出来のいい子はいやしない』らしい。
ほしいものはなんでも揃っているダーズリー家だったが、秘密にしていることもあった。そして、その秘密がだれかにバレてしまうことを何よりも怖れていた。あのポッター一家のことが誰かに知られてしまったら、とても耐えられないと考えていたのだ。ポッター夫人はダーズリー氏の奥さんの妹なのだけれども、二人はここ数年一度も会っていなかった。それどころかダーズリー夫人は、自分には妹などいやしないというふりをしていた。なにしろ、妹もなんの役にも立たないその夫も、ダーズリー家の家風とはまるっきり正反対だったから。ポッター家がそのへんに顔を出したら、ご近所の人たちは何て言うだろう。それを考えただけで、ダーズリー家の者たちは身の毛がよだつのだった。ポッター家にも小さな男の子がいることをダーズリー夫妻は知っていたが、ただの一度もその子に会ったことはなかった。その子供のこともポッター家を遠ざけていた理由の一つだった。その子と、自分たちのダドリーが関わり合いになることが嫌だったのだ。
ある火曜日の朝、ダーズリー夫妻が目を覚ますと、外は灰色の空でどんよりとしていた。ここからわれわれの物語ははじまる。だが、国全体を巻き込んだ摩訶不思議な出来事が間もなく起ころうとしていることなど、曇り空のどこにも感じられなかった。」
まとめ
以上、ハリーポッターの第1巻『賢者の石』の冒頭部分を原書で読んでみました。
薄々気づいたかとは思いますが、けっこう難しいです。
僕は大学生のときに英語多読を始めて、小説はハリポタから読み始めたのですが、非常に苦労しました。このシリーズは後半に進むにつれて文章の難易度も上がり、しかも分量もとてつもなく増加していくので、かなりの苦行でした。
最初のうちにこれをいきなり読むのはおすすめしないです。多読に慣れてきた中級者の入り口ちょい手前あたりで読み始めるのがいいと思う。
最初に読む小説としてはHolesのほうがいいですね。ファンタジーならナルニア国物語のほうがハリポタより簡単でおすすめできます。