今回はジンサーの名著『On Writing Well』の英文を読んでみましょう。
アメリカでライティングのバイブルとされる本には、双璧をなす2冊の本があります。
一冊はストランク&ホワイトの『Elements of Style』。そしてもう一冊がウィリアム・ジンサーの『On Writing Well』です。
『Elements of Style』がマニュアルないし資料のようなテキストなのに対し、こっちは読み物としての性格が強め。わりと楽しく読めます。僕はライティングの勉強のためというより、英語の多読の一環として読みました。ライティングの知識も見について一石二鳥。
『On Writing Well』の構成
『On Writing Well』は引用が多い本です。お手本となる文章をジンサーが引用してきて、それを解説していくスタイル。引用された文章は自然と質の高いものばかりなので、写経用のお手本としても使えるかも。
ページ数は308ページ。全体は大きく4つのパートに分かれ、全部で24の章があります。
4つのパートは以下の通り。
・原則
・方法
・形式
・心構え
原則パートで語られる内容は、たとえば次のようなもの。
・余計な語は削れ
・不特定多数ではなく特定の相手に向けて書け
・ライティング上達は真似をすることから始まる
方法パートで語られる内容は、たとえば次のようなもの。
・序文と末文の書き方
・動詞、形容詞、副詞などの使い方および注意点
・推敲のテクニック
形式パートで語られる内容は、たとえば次のようなもの。
・どの分野について書くのか
・各分野ごとの書き方(スポーツ、旅行、芸術、科学、etc)
・ユーモアの使い方
心構えパートで語られる内容は、たとえば次のようなもの。
・尊敬できる書き手を見つけて徹底的に真似よ
・楽しめる分野で書け
とにかく削れというのは日本の文章術の本でもよく目にする教えですね。文章のなかでなんの機能も果たしていない語は、すべて削ってかまわないと。
上手い人の真似をしろという教えもそう。やはり最初は真似から入るのが近道とのこと。やがてそこからオリジナルティも出てくるといいます。尊敬する書き手がいる人はラッキーです。
楽しめる分野で書けというのも至言だと思う。とくにライティングの仕事をする人は、これを肝に銘じておいたほうがいいですね。でないとすぐに消耗して、嫌になると思います。
ジンサーの英文を読んでみる
ジンサーの文章はレトリックを多用するタイプで、日本人からするとやや難易度が高いです。案外、洒落た装飾の多い文章な気がする。これを洋書で読もうとすると、ある程度のリーディング力は求められるかもしれません。
英文ライティングの勉強になるのはもちろんですが、ライティングそのものを洋書で勉強してみたいという人にもオススメできます。日本語で文章を書くときにも応用できる考え方ばかりなので。
ではジンサーの英文を読んでみましょう。
But the secret of good writing is to strip every sentence to its cleanest components. Every word that serves no function, every long word that could be a short word, every adverb that carries the same meaning that’s already in the verb, every passive construction that leaves the reader unsure of who is doing what—these are the thousand and one adulterants that weaken the strength of a sentence.
「良い文章を書く秘訣は、あらゆる文を、もっとも簡潔な構成要素にまでそぎ落とすことです。役に立たない言葉、短く言いかえることのできる長い言葉、動詞がすでに表している意味を繰り返すだけの副詞、誰が何をしているのか読者を混乱させる受動態――これらはすべて、文の力を弱める無数の不純物です。」
では1文ずつ確認していきます。
But the secret of good writing is to strip every sentence to its cleanest components.
「良い文章を書く秘訣は、あらゆる文から余計なものを取り除き、もっとも簡潔な構成要素にまでそぎ落とすことです。」
・strip A to B Aから余計なものを取り除いてBにする
・component 要素
Every word that serves no function, every long word that could be a short word, every adverb that carries the same meaning that’s already in the verb, every passive construction that leaves the reader unsure of who is doing what—these are the thousand and one adulterants that weaken the strength of a sentence.
「役に立たない言葉、短く言いかえることのできる長い言葉、動詞がすでに表している意味を繰り返すだけの副詞、誰が何をしているのか読者を混乱させる受動態――これらはすべて、文の力を弱める無数の不純物です。」
長い文章。Every wordから始まって動詞はどこだろうと読み進めていくと、カンマの次にまたeveryがきて今度はevery long wordという形になっています。この時点でEvery A, every B, every Cと主語の部分が長くつらなった形だなと察しがつきます。
さすがにそろそろ動詞がくるだろうと読み進めていくと、予想は裏切られ、—these areとなっています。ダッシュの次にtheseがきて、これが前半のevery連打の内容をすべてまとめています。
・adverb 副詞
・verb 動詞
・passive construction 受動態
・thousand and one 無数の。1001という具体的な数を意味するのではなく、量が膨大であることを表します。千夜一夜物語(アラビアンナイト)に由来する表現。
・adulterants 不純物
せっかくなので、もう一つ別の箇所を読んでみましょう。
Never hesitate to imitate another writer. Imitation is part of the process for anyone learning an art or a craft. Bach and Picasso didn’t spring full-blown as Bach and Picasso; they needed models. This is especially true of writing. Find the best writers in the fields that interests you and read their work aloud. Get their voice and their taste into your ear—their attitude toward language. Don’t worry that by imitating them you’ll lose your own voice and your own identity. Soon enough you will shed those skins and become who you are supposed to become.
「他の作家を模倣することをためらってはいけません。模倣は、芸術や技術を学ぶ誰にとっても欠かせないプロセスの一部です。バッハやピカソも、最初から完全な形でバッハやピカソとして現れたわけではなく、彼らにも手本が必要でした。これは特に文章を書くことに当てはまります。あなたが興味を持つ分野の中で最高の作家を見つけ、その作品を声に出して読みましょう。彼らの声やセンス――言語に対する態度を耳で感じ取るのです。他人を模倣することで自分の声やアイデンティティを失うのではないかと心配する必要はありません。そのうち、あなたはその殻を脱ぎ捨て、自分がなるべき姿へと成長していくのです。」
では1文ずつ順番に読んでいきます。
Never hesitate to imitate another writer.
「他の作家を模倣することをためらってはいけません。」
直前の文章とはうってかわり、ここからは短い文章の連続でホッとします。こういう緩急も計算されている可能性が高いです。
・imitate 真似をする
Imitation is part of the process for anyone learning an art or a craft.
「模倣は、芸術や技術を学ぶ誰にとっても欠かせないプロセスの一部です。」
Bach and Picasso didn’t spring full-blown as Bach and Picasso; they needed models.
「バッハやピカソも、最初から完全な形でバッハやピカソとして現れたわけではなく、彼らにも手本が必要でした。」
;はセミコロンと呼ばれ、英文ではかなりの頻度で登場します。内容的に関連する2つの文章をつなぐのがその役割。
・spring 飛び出す
・full-blown 完全に発達した
This is especially true of writing.
「これは文章を書くことに特に当てはまります。」
Find the best writers in the fields that interests you and read their work aloud.
「あなたが興味を持つ分野の中で最高の作家を見つけ、その作品を声に出して読みましょう。」
・read aloud 声に出して読む
Get their voice and their taste into your ear—their attitude toward language.
「彼らの声やセンス――言語に対する態度を耳で感じ取るのです。」
ここのtasteはセンス、感性、美意識といった意味。
Don’t worry that by imitating them you’ll lose your own voice and your own identity.
「他人を模倣することで自分の声やアイデンティティを失うのではないかと心配する必要はありません。」
that節のなかにいきなりby imitating themが登場するので混乱するかも。by imitating themをカッコで囲ってしまい、Don’t worry that you’ll lose your own voice and your own identity.と読めばすんなり理解できます。
英文読解に慣れてくると、こういう構造が瞬時につかめるようになります。
Soon enough you will shed those skins and become who you are supposed to become.
「そのうち、あなたはその殻を脱ぎ捨て、自分がなるべき姿へと成長していくのです。」
soon enoughは「すぐに」というよりも、「それほど遠くない未来に」とか「いずれ必ず」といった確信を表現しています。
become who you are supposed to becomeはおしゃれな表現。ここはyou will becomeときて「あなたは~になるでしょう」という意味がまず最初に理解できます。
では何になるのかというと、続くwhoの中身がそれを説明します。who you are supposed to become、つまり「あなたがなるべき姿」です。be suppose toで「~するべき」とか「~することになっている」の意味。
・shed 取り除く
以上、ジンサーの『On Writing Well』の英文読解でした。