翻訳は日本語力が大事『翻訳とは何か 職業としての翻訳』【書評】

翻訳の真髄を伝える本といえば、山岡洋一による『翻訳とは何か 職業としての翻訳』。翻訳者からも翻訳学習者からも高い評価をうけてきた名著です。

著者はおもに経済分野で出版翻訳と産業翻訳にたずさわった有名な翻訳家。ケインズやアダム・スミスといった超大物の翻訳者としても有名。

本書の発売は2001年でした。当時と比べてネット環境が変わり、翻訳ビジネスの形態も多様化した現代。しかし本書の本質部分は今でも通用するものです。

全体の構成は以下の通り。

第1章「翻訳とは何か」…ヘーゲルの『精神現象学』、金子武蔵訳と長谷川宏訳を比べて、翻訳の本質にせまる

第2章「歴史のなかの翻訳」…古代中国、イスラム世界、近代ヨーロッパ、近代日本と、翻訳の歴史をざっと外観。三蔵法師玄奘、ウィリアム・ティンダル、村田蔵六などが登場。

第3章「翻訳の技術」…翻訳に必要な能力とその磨き方について(後述)。

第4章「翻訳の市場」…翻訳市場の需給バランスから翻訳者の収入事情、仕事を取るときのコツまで。

第5章「翻訳者への道」…翻訳者育成産業への批判。

第6章「職業としての翻訳」…在宅ワークの罠など、職業として翻訳を続けていくときに見舞われる問題について。

翻訳に必要な3つの能力

著者いわく、翻訳に必要な能力には次の3つがあります。

・日本語で表現する技術
・外国語を読む技術
・内容を理解する技術

日本語で表現する技術

このなかで一番大事なのは実は日本語で表現する技術だといいます。この姿勢を崩さないのが山岡洋一の特徴。

翻訳の秘訣、それは完成度の高い日本語で書くようにつとめることである。これが翻訳の秘訣であり大原則である。翻訳にあたっては、この大原則を肝に銘じておくべきだ。日本語としての完成度を高めようとつとめていれば、自然に原文の読みや理解が深くなり、正確になる。(山岡洋一『翻訳とは何か 職業としての翻訳』)

ではどうやって日本語力を磨いたらいいのか?

文豪の『文章読本』シリーズでも言われているように、やはり名文をたくさん読むのが出発点とのこと。

とはいえただ読むだけでは駄目で、翻訳に使える言い回しはないかと、観察眼を働かせながら文章を読んでいく必要があるようです。とくに注目すべきなのはコロケーション(どんな単語と単語が結びついて使われるのか)。

また翻訳文をモデルにしてはならないとも。いくら出来のいい翻訳であっても、日本語のモデルとしては機能しないので注意が必要です。

 

外国語を読む技術

次は外国語を読む技術。これには3つのステップがあるといいます。

・外国語を学ぶために読む段階
・外国語を外国語と意識せずスラスラ読む段階
・翻訳のために読む段階

翻訳のためには1段階目と2段階目をクリアしている必要があるとのこと。

1段階目は学校の英語教育でクリアできますよね。著者は学校英語をしっかり勉強しておくべきだと考える派のようです。

ただし英文和訳の癖には要注意とのこと。英文和訳と翻訳はまったく別物ですから(英文和訳は内容理解を教師に示すもの、翻訳は自然な日本語で表現するもの)、翻訳するさいには英文和訳の癖を抜くことが必要です。

後ろから前へと戻って読んでいく方法からも脱却する必要があります。学校英語ではこうやって英文を読みますが、この方法だと第2ステップのスラスラ読む段階をクリアできないので。ちなみに前から英文を読み下していく力をつけるには音読が有効です。

 

内容を理解する技術

英語の文章が読めれば内容は自然と理解できるのではと思いますよね。でも実際はそんなことはないんですね。

仮に日本語で書かれていても、自分の知らない専門分野だと内容はなかなか理解できないです。英語で書かれていればなおさらですし、それを翻訳するとなったらさらに大変です。

したがって翻訳のときもその分野の専門知識が重要になってきます。

専門知識をつけるコツは、一つの分野をコアにしてその分野で仕事を受注していくこと。分野をコロコロ変えると、内容を理解する技術が伸びていきません。

小説を翻訳し、つぎにコンピューターの技術書を翻訳し、つぎに芸術の歴史の本を翻訳するといったやり方をしていれば、職業としての翻訳は成り立たない。そのたびに基礎から学ばなければならなくなり、大量の調べ物が必要になる。効率が悪くなるし、締め切りに間に合わせようとするとどうしても調査が雑になり、翻訳も雑になる。(前掲書より引用)

最初に自分の専門分野を決めるのが重要です。

ちなみにこれは翻訳にかぎらず日本語でのライティングとかにも当てはまる鉄則。著者もいうように、見境のない受注からスランプが始まるので気をつけたいものです。

 

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