中山祐木子といえば翻訳者のあいだでは有名な存在。特許系のジャンルを専門にし、技術翻訳のテキストでも非常に評価の高いものを出しています。
この人が一般の英語学習者むけに書いてベストセラーになったのが『会話もメールも英語は3語で伝わります』(ダイヤモンド社)。2016年に発売され、いまだに売れてます。
今更ながら僕も買って取り組んでみました。
残念ながら、これを読めば英文がすぐにスラスラ作れるようになるということはまずありません。
ただ、英作文や英会話の学習のための基本方針が手に入ります。
とくに初心者が本書の内容を知っておくと、遠回りをせずに英語の発信力をぐんぐん伸ばしていけるようになるかと思います。
あらゆる英語を3語で表現せよ
英語は3語で伝わりますの「3語」とは何を意味しているのでしょうか?
実はSVOのことを意味しています。
Sは主語、Vは動詞、Oは目的語です。つまり本書のメッセージは、すべての英語をSVOで表現せよということなのです。
たとえば「私の仕事は英語の先生です」という文章を英語にするとしましょう。受験英語の英作文のノリで訳したら、
My job is an English teacher.
というふうになりますよね。これでマルをもらえます。
しかし本書の著者によると、この文章はあまり実践的ではないとのこと。もっとシンプルに訳したほうが、短くわかりやすい文章になるといいます。それが次の文章です。
I teach English.
IがS(主語)、teachがV(動詞)、EnglishがO(目的語)になっています。
本書ではあらゆる英語表現をこのシンプルでダイレクトなSVO形式で表現できるように、ありとあらゆるワザを教えてくれるのです。
3語の英語には3つのメリットがある
英語を3語で表現することにどんなメリットがあるのでしょうか?著者は次の3つを挙げています。
・文章を組み立てやすい
・会話のスピードが上がる
日本語は話の結論が文章の後ろにくる言葉ですよね。したがってそれを直訳して英語を組み立てると、いつまでも結論のはっきりしないだらだらした文章になりがちとのこと。しかし、本書で教わる3語の構造に直せば、結論がダイレクトに伝わる英語らしい英語になります。
また3語の構造で英文を組み立てると、余計な構文や単語(冠詞や前置詞など)を使わずにすむ場合が多くなるため、文章を組み立てるときのミスが起こりにくくなります。
そして全体の単語数が減るため、それだけ会話のスピードが上がるというわけです。
複雑な文章構造はすべて捨てる
3語の英語表現を組み立てるコツはあるのでしょうか?著者は、このSVO構造に合わない構文をばっさばっさと捨てていきます。
・仮主語と仮目的語のitを捨てる
・受け身を捨てる
・notを捨てる
・難しい時制を捨てる
これらの構文も、すべて3語の構造に変換されます。たとえば「このグループには3人の日本人がいる」という文章があったとしましょう。受験英語的に訳せば次のようになるかと思います。
There are three Japanese people in this group.
しかし本書ではthere is構文は捨てたほうがいいとのことでした。ということで上の英文を3語の構造に書き直してみます。
This group has three Japanese people.
こんな感じのノリで上記の構文がガシガシと3語構造に変換されていきます。
初心者ほど効果がありそう
「3語で十分!」と言われると、あたかもかんたんに英語が使えるような気になりますが、実際にはそれほど甘くありません。
僕たちの頭には学校英語でならった英語が詰まっているため、最初のうちはむしろ3語で表現するほうがむずかしいです。
・頭のなかで英文を組み立てる→それをSVO構造に変換する→発信する
このように、英語を発信する際にひとつ多くのステップが必要になるわけですからね。
しかし学習のための指針にはなります。訓練を繰り返せば、やがて3語で英文を組み立てることが当然になるでしょう。
・頭のなかで3語の英文を組み立てる→発信する
このようにスムーズに表現できるようになっていくと思います(僕はまだそのレベルにはありませんが)。
言い換えればこの方法、英語の初心者ほど速効性があるかもしれません。学校英語の複雑な英語に汚染されていない頭なら、すんなりと3語のパターンに馴染めるのではないでしょうか。
小学生や中学生の英語学習者や、良くも悪くも英語をあまり勉強してこなかったという人は、早いうちに本書を学習しておくとよいでしょう。遠回りせずに最短ルートで英会話や英作文の力を伸ばすための、基礎ができあがるはずです。
続編は瞬間英作文のテキストとしても使えます
本書には続編も出ています。タイトルは『英語は3語で伝わります どんどん話せる練習英文100』。
いわば本書の実践編で、ドリル形式のテキストになっています。日本語が出題され、読者はそれを3語形式の英文に組み立てていきます。全部で100題。
実はこれ瞬間英作文のテキストとして使えます。瞬間英作文とは、簡単な日本語を瞬時に英語化することで英語のアウトプット回路を成長させる有名なトレーニング方法のこと。
このテキストの場合、実践的な3語構造を身に着けながら英語アウトプット回路の強化もできるので一石二鳥になります。
『技術系英文ライティング教本』もおすすめ
本書の著者・中山裕木子は、プロの特許翻訳者としても活動しています。
本書の他にも色々なテキストを出していて、とくにおすすめなのは『技術系英文ライティング教本』です。特許翻訳を含め、産業翻訳者を目指す人の多くがお世話になっている英作文のバイブル。
きわめてクオリティの高いテキストなので、英作文の力をつけたいという人、あるいは日英翻訳に挑戦したいという人は、取り組んでみるとよいでしょう。
2021年には講談社現代新書から『シンプルな英語』という学習指南書も出しています。これもけっこう良書でした。
